肝臓に効く漢方薬一覧。疾患や症状ごとに種類分け
肝臓の問題を解決するためには、やはり病院で定期的に血液検査をして、その数値を見ながらの投薬治療が通常でしょう。
肝臓治療に漢方を採用しようと考える人はあまり多くない印象もあります。
しかしよく考えてみると、肝臓は「全身の栄養のバランス」と密接にかかわる臓器で、肝臓だけを良い状態にするのではなく、身体全体を改善したほうが治療しやすい部分もあります。
その意味では漢方が有効とも考えられます。今回は肝臓機能の回復効果を期待できる、漢方の種類をご紹介しましょう。
さまざまな肝臓の問題への効能があるとされる漢方薬
西洋医学の薬剤と異なり、あまり細かい肝疾患ごとに分類して漢方薬をご紹介することはできませんが、ある程度大きなくくりで「肝臓の問題への効能があるとされる漢方薬」をご紹介していくことにします。
また、西洋医学における薬物のように科学的(化学的)、医学的な根拠の詳細についてもご紹介することはできませんが、漢方薬を扱っている病院や薬局・ドラッグストアなどにいけば医師や薬剤師に推奨されることもある漢方薬です。
まずは、肝疾患の中でももっとも多くの日本人がかかっているとされる「脂肪肝」への効能が認められる漢方薬からです。
脂肪肝に効く漢方薬をご紹介!
脂肪肝は必要以上に脂肪が肝臓組織に付着した状態の疾患で、基本的には無自覚ですが、将来慢性肝炎や肝硬変、肝硬変になってからは肝がんなど重大な肝疾患へと移行することもある、イメージ以上に怖い疾患です。
肝機能検査(血液検査)では、ALT(GPT)やAST(GOT)が高値を示すことが多いです。γGTP(γ:ガンマ)が高値のときはアルコール性の脂肪肝の可能性が高いです。
これらの脂肪肝に効果があるとされる漢方薬をまとめます。
漢方薬の名称 | 症状 | 説明 |
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防風通聖散(ボウフウツウショウサン) | 食べすぎによる栄養過多、のぼせ、便秘、太鼓腹、じんましんや湿疹など | 身体に残った毒素を汗、便、尿などと一緒に排出する効果 |
大柴胡湯(ダイサイコトウ) | 肝機能低下による口の苦み、イライラ、怒りっぽい、のぼせ、目の充血など | 便秘がちな人や精神的不安定、ストレスを感じやすい人の脂肪肝に適する |
桃核承気湯(トウカクジョウキトウ) | 頭痛、肩こり、お腹の張り、常習性のある便秘など | 瘀血(おけつ=中国医学における「血行不良」)による脂肪肝などの症状に効く |
(表の参考:脂肪肝-馬場薬局より)
西洋医学に慣れ親しんでいる私たち現代人からすると、「えっ、脂肪肝が漢方薬で治るの?」と思うかもしれませんが、根本的な脂肪肝の改善というよりは、ある程度長期的なスパンで体質改善しながら脂肪肝も改善していきます。
脂肪肝ならもしかしたら漢方薬で改善できるのかもしれないけれど、さすがにそれ以上の肝疾患・肝機能障害となると難しいんじゃないのかな・・・と、きっとみなさんは思うでしょう。でも、そうでもないんです。
ウイルス性肝炎(主にB型・C型肝炎)にも漢方薬の効能が期待できる!
脂肪肝でも漢方で改善できるかもしれないわけですから、肝炎が改善できたって不思議はないといえなくもありません。
ただ、肝炎の多くがB型肝炎・C型肝炎などの「ウイルス性肝炎」です。
ウイルス性肝炎が改善するとなると、抗ウイルス剤と同様の効果を漢方薬に期待したくなるものですが、こちらも西洋医学の考え方とは一線をおいて考える必要があります。
漢方薬によるウイルス性肝炎への効果・効能は、抗ウイルス剤としての効能ではなく、ウイルス性肝炎の症状の軽減と、体質改善によるウイルス排除の機能を高めるところにあります。こちらも長期的スパンで改善をはかります。
- ウイルス性肝炎に効果があると考えられる漢方薬
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- 桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)
- 竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
- 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
- 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
- 十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)
- 柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
- 真武湯(シンブトウ)
(参考:慢性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)の漢方薬治療-漢方誠芳園薬局より)
より重篤な肝疾患や肝機能障害への効果が期待される漢方薬もある!
脂肪肝は多くの日本人がかかっている肝疾患です。
かつては「肝疾患」というほど大げさなものではないと軽視されていた時代もありました。ところが上でもお話したとおり、脂肪肝は非常にリスクが大きい肝疾患です。
そして、(ウイルス性)肝炎になってしまうと、そこからもっと重大な肝疾患へと移行する可能性が高まります。つまり肝炎は非常に大きな脅威となりうるということです。
そして、その「もっと重大な肝疾患」にも、漢方薬の効果・効能が期待されます。もっと重大な肝疾患の代表が、著しく肝細胞がダメージを負う「肝硬変」です。
また、胆石や胆のうのトラブルによるさまざまな症状も「肝機能障害」に含まれます。肝硬変や肝機能障害にも、西洋医学の薬物との併用で漢方薬に効果がみられることがあります。
- 重篤な肝疾患やさまざまな肝機能障害への効果が期待される漢方薬
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- 小柴胡湯(ショウサイコトウ)・・・肝機能障害
- 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)・・・肝機能障害
- 茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)・・・黄疸(おうだん)、肝硬変
- 四逆散(シギャクサン)・・・胆のう炎、胆石症
(参考:漢方薬一覧(ツムラ製品番号順)-漢方薬ネット診断.com(ツムラ)より)
確かに肝硬変などの重度肝疾患や、胆石をはじめとするトラブルによる肝機能障害への効果が期待される漢方薬は存在しますが、しかしいずれも緊急を要する、あるいはすぐにでも対処したほうがよい疾患です。
それゆえ、漢方薬だけで対処するのではなく、西洋医学との併用によってできるだけ大きな効果を得ると考えたほうが無難です。
重度肝疾患のケアの助けとなる漢方薬にも注目する
「便秘と肝臓」の記事で、肝硬変など重い状態の肝疾患では、便秘はできるだけ回避すべきだというお話をしました。
そこで、便秘に効果がある漢方薬にも着目します。
- 便秘の改善効果が期待される漢方薬
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- 潤腸湯(ジュンチョウトウ)
- 調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)
- 大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)
- 通導散(ツウドウサン)
- 三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)
- 麻子仁丸(マシニガン)
- 大承気湯(ダイジョウキトウ)・・・特に常習性の強い便秘
- 桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)・・・特に常習性の強い便秘
(参考:漢方薬一覧(ツムラ製品番号順)-漢方薬ネット診断.com(ツムラ)より)
また、肝機能低下により下痢の症状がみられることもあります。(詳しくはこちらの記事で説明しています)
下痢への効果が期待できる漢方薬もあります。
ウイルス性肝炎や肝硬変などは、便秘すると症状が悪化するリスクがありますので、できるだけ便秘は回避する必要があります。そのためにも、上記の漢方薬のことを知っておいていただきたいと思います。
肝疾患への漢方薬利用はあくまでも「有効活用」であることが望ましい
かつて「肝臓に効く薬はない」などと言われた時代もあったようですが、これはおそらく「肝硬変に効く薬はない」という意味なのではないかと推測されます。肝臓に効く薬がないわけではありません。
ですから、漢方薬に頼らなくても、「肝臓に効く薬」を使用することで、肝臓にまつわるさまざまな問題を解消できる可能性は決して低くないのです。そういう状況で、あまりにも漢方にこだわってしまうのも少々危険です。
ただ、漢方薬の効能も大いに期待できることは事実・・・それならここでは、「漢方薬は、西洋医学の薬と併用してより大きな効果を得られる薬である」というニュアンスで解釈するとよいのではないかと考えます。
漢方だけをよりどころにするのではなく、漢方を有効活用するというイメージです。この考え方は、漢方薬本来の良さや漢方薬の存在意義にも通じる部分なのです。