指定難病95、自己免疫性肝炎とは。肝臓がどのようになってしまうのか

肝臓の病気にたくさんの種類があることは周知のとおりですが、ちょっと特殊なタイプの肝臓病もあり、いわゆる「難病」に指定されている肝臓病もあります。

「自己免疫性肝炎(指定難病95)」です。

「膠原(こうげん)病」という病気がありますが、自己免疫性肝炎は「肝臓病の中の膠原病」という印象の病気です。膠原病は、ひとことでいえば「仲間はずれの病気」、つまりは分類できないタイプの疾患群です。自己免疫性肝炎も同様です。

今回は肝炎の中でも難病に指定されている、自己免疫性肝炎についてお話します。

自己免疫性肝炎っていったいどんな肝臓病なの?

はじめに自己免疫性肝炎をしっかりと定義しておくことにするのですが、しかしその前に、そもそも「自己免疫ってなによ?」というところからまずは簡単に説明しておくことにします。

免疫についてはみなさんもよくご存じかと思います。「よく」でなくてもだいたいのイメージは「免疫」というワードに対して持っているでしょう。

免疫は、外部からの侵入物(細菌やウイルス、アレルギー原因物質など)から身を守る仕組みです。

私たちが日々健康に暮らせるのも、外部からの細菌などに対して免疫が機能し、これを排除してくれているからです。細菌の侵入がないわけではないんです。

一方で「自己免疫」とは、何も悪くない細胞や組織を攻撃する免疫を指します。

自己免疫性肝炎の定義

自己免疫性肝炎も自己免疫によって起こる肝炎なので、膠原病の多くに当てはまる「自己免疫疾患」に分類されます。

では、自己免疫疾患が原因となっている肝炎のすべてが自己免疫性肝炎なのかというと、そうではありません。

話がややこしくなってしまう前に、さっそく「自己免疫性肝炎」を定義しましょう。

指定難病95・自己免疫性肝炎
免疫の異常(自己免疫)に原因があると考えられる肝細胞の障害で、以下の肝障害やその原因を除いた慢性肝炎を指す

  • ウイルス性肝炎(肝炎ウイルスによる肝障害)
  • アルコール性肝炎
  • 薬物による肝炎・肝障害
  • 自己免疫疾患による肝障害

(参考:自己免疫性肝炎(指定難病95)-公益財団法人難病医学研究財団難病情報センターより)

現在国内に推定1万人がこの病気にかかっていると考えられています。数的にはそこまで多くはありません。

中年以降の女性により多く見られるのが自己免疫性肝炎の特徴です。

自己免疫疾患でおこった肝障害は自己免疫性肝炎ではない

それはさておき、上の定義のところでは、「自己免疫疾患によっておこった肝臓トラブルはよる肝障害は自己免疫性肝炎には含まれませんよ」というお話でした。この部分について、「は?」と思った読者も多いかと思います。ちょっと説明を加えましょう。

「リウマチ(性疾患)」だとか「全身性エリテマトーデス」だとか、膠原病には非常にたくさんの種類の難病が含まれるわけですが、そのほとんどが「自己免疫疾患」なんです。

何しろ自分の身体が誰の意志も反映せず勝手に自分の身体を攻撃してしまうのが自己免疫疾患ですから、(特に重度の)膠原病の多くで、いろいろな症状がめぐりめぐって肝障害を引き起こしやすいという特徴があるんですね。

つまり、自己免疫性肝炎以外の自己免疫疾患が原因となって起こる肝障害に関しては、そちらの原因(多くは膠原病)のほうが問題であって、そういった病気が原因で起こる肝炎や肝障害は、その病気の「症状」と解釈されるわけです。

ほかの病気とは無関係に起こる自己免疫性の肝炎だけが「自己免疫性肝炎」と定義されることになるんです。

そして、冒頭でこの自己免疫性肝炎を「肝臓の膠原病」と表現したのも、「女性に多い」という特徴があるからです。ほとんどの膠原病は、男性にくらべて女性のほうがはるかに発症率が高いんです。

原因不明、重度疾患、女性に多い、肝臓の疾患・・・自己免疫性肝炎は、いろいろな部分で膠原病に通じるところが多く見られるとても怖い肝炎です。では、その「怖さ」について具体的にお話していきます。

自己免疫性肝炎は肝臓がどんな状態?身体にあらわれる症状とは

自己免疫性「肝炎」というくらいですから、基本的には「肝炎」が起こっていると考えて問題ありません。

肝炎、つまり肝細胞がダメージを受けて肝臓が炎症を起こしている状態は、もちろんそれ自体やや重篤な状況です。

しかし肝炎でより重要なことは、そこからさらに悪化して肝硬変や肝がん、肝不全へと最悪な状態に進行させないことです。これについては、ウイルス性、アルコール性、薬物性などの肝炎も自己免疫性肝炎も同じことがいえます。

症状としては、

  • 倦怠感(患者全体の40%)
  • 黄疸(おうだん=白目や皮膚の一部が黄変する肝障害)(35%)
  • 食欲不振(27%)
  • ALT(GPT)、AST(GOT)値の上昇

と、そこまで重篤な症状を自覚することは多くありません。

ただし、一般的な肝炎ではまず見られない「関節痛」や「発熱」が起こりやすいところがやや特徴的です。

そして自己免疫性肝炎の最も怖いところは、やっぱり「自己免疫疾患である」というところなんです。

実は、自己免疫性肝炎患者の多くが、その他の自己免疫疾患や膠原病を併発するという臨床データがあります。

データによると、全体の約3人に1人の割合で、何らかの自己免疫疾患や膠原病を併発してしまうとのことです。

もう1つ怖いところは、自己免疫性肝炎の「肝炎タイプ」です。肝炎にもいくつかのタイプがあって、あまり進行する意欲がないタイプの肝炎と、積極的に肝細胞の破壊が進んでどんどん進行しようとするタイプの肝炎があります。

自己免疫性肝炎の場合、後者の肝炎タイプの慢性肝炎を発症するケースが多いです。進行のリスクが高いタイプの慢性肝炎を「慢性活動性肝炎」と呼びます。慢性活動性肝炎は、肝硬変への進行のリスクが高いです。

ちなみに肝疾患の活動性の大小は、脂肪肝や肝硬変などの肝疾患にも傾向として見られます。肝疾患の活動性の大小、強弱、有無は、自己免疫性とは無関係に「傾向」として不随する印象があります。

膠原病に近い自己免疫性肝炎ですから、根治療法は現在のところ確立されていません。とはいえ、一般の肝疾患も比較的根治が難しい病気が多いですから、根治はともかく肝炎から先の「最悪な状態」への進行を予防することが最重要です。

難病ではあるけれど、肝炎を治療する意識が大切!

自己免疫性肝炎は、難病指定がある病気です。それだけに、根治はおろか、改善も難しいのではないかと考える患者さんも多いようです。

しかし実際には、膠原病治療で使用されるプレドニゾロン(プレドニン)など、効果が高い薬があります。

ですから根治療法が確立していないだけで、「治療できない病気ではない」ということをよく理解していただきたいと思います。そもそも「難病」という発想は、人間が勝手につくったくくりです。そこまで大きな意味はありません。

難病だろうと軽度だろうと、そこから悪化させないことが肝炎の最重要事項です。難病指定がある病気は、医療費助成の対象になることも多いです。自己免疫性肝炎も、症状や重度によってその対象となりえます。

助成の詳細については、治療する病院でよく相談してください。そして、少しでも自己免疫性肝炎の回復に役立てるよう、そうした制度も有効活用していただきたいと思います。

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