【アルコールと肝臓の関係】酒が与える肝臓へのダメージと危篤な疾患

「酒は百薬の長」などと言われますが、その解釈もすべて飲酒量の程度次第で一変します。

お酒を飲みすぎる、つまりアルコールを過剰に摂取することで、どんな肝臓でも確実にダメージを受けます。「百薬の長」どころではないのです。

肝臓だけに限った話ではないものの、ほかの臓器はともかく、まずは肝臓がやられてしまう確率が極めて高いです。冒頭からアレなのですが、お酒が好きな人はご自身の肝臓をケアしてあげることを心がけましょう。

ということで、今回のテーマは「肝臓とアルコールの関係」です。

当然だけど素朴な疑問?なぜアルコールで肝臓がやられるのか

アルコールの過剰摂取によって肝臓がダメージを負うという事実に関しては、「当然」と認識している人が多いと思います。

ところが「なぜアルコールで肝臓がやられるのか」のメカニズムまでは知らないかもしれませんね。

肝臓に良くないのはわかっていても、お酒の誘惑はなかなか強固なものがあります。だからこそ「わかっちゃいるけどやめられない!」のですが、そんなのんきなことを言っている場合ではない人もいると思います。

そこで、「なぜ」の部分まで踏み込んでそのメカニズムが理解できれば、「わかっちゃいるから(?)控えます・・・」と反省の余地も生まれるかもしれません。

まずは肝臓の役割の概要を知ろう

肝臓の役割は大きく分けて「3つ」と説明されることが多いですが、もっと多いといえばいえますし、突き詰めれば「1つ」ともいえてしまいます。それくらい複雑で多様な影響を人体に与える臓器なのです。

肝臓の説明の多くにならって「3つ」からアプローチすると、肝臓の働きとは次の3つです。

  1. 胆汁の生成・分泌
  2. 解毒(げどく)
  3. 代謝
胆汁

肝臓で生じた老廃物を洗い流し、脂肪の消化吸収を促す「酵素」として働くのが胆汁です。胆汁は 肝臓 → 胆管 → 胆のう と流れ、胆のうで濃縮されて十二指腸へと流れます。

解毒

字のとおり、肝臓で生成される毒素を分解し、無毒化するという重要な役割が肝臓にはあります。解毒がうまくいかないと、血中に入り込んだ毒素が全身をめぐることになり、全身疾患の原因となります。

代謝

簡単に言えばそこにある物質を別の物質に変えることです。「基礎代謝」などということばは耳慣れているかと思いますが、これは「脂肪を熱エネルギーに変換する」といった意味合いがあります。

早い話が「脂肪を燃焼させる」のが基礎代謝でつかわれている「代謝」の意味です。肝臓の場合、腸で吸収された栄養を蓄えた血液が流れていく過程で、効率よく栄養を吸収するために代謝が行われます。

つまり、吸収しづらい栄養から吸収しやすい栄養につくりかえるのが肝臓の大切な役割になります。

そしてもうひとつ、毒素を無毒な物質に変換する(つまりは解毒する)のも代謝と考えることができます。

この過程で老廃物が生成されると、胆汁が有効に機能することになります。胆汁がうまく分泌されなかったり流れが停滞したりすると、「黄疸(おうだん)」という肝疾患特有の皮膚症状が現れます。

という具合に、代謝、解毒、胆汁生成・分泌は、互いに独立して機能しますし、互いに関係しあいながら総合的にも機能します。ですから肝臓は、大ぶりな臓器ながらも繊細で高度な機能を備えた臓器でもあるのです。

そしてここに「アルコール」というファクターが絡んでくると、過度の飲酒によって肝臓がダメージを受ける理由がだんだんわかってくるんです・・・

肝臓でアルコール代謝が起こると「毒素」が発生する!

肝臓は代謝や解毒の機能を果たしますが、肝細胞自体が力技で何かをしているわけではなく、特殊な分泌物を生成して消化、吸収、代謝、解毒などの役割を担います。この分泌物が「酵素」と呼ばれる物質です。

肝臓でアルコール代謝を行う際には、「アルコール脱水素酵素」と呼ばれる酵素の働きによって、エタノール(お酒の主成分であるエチルアルコール)が「アセトアルデヒド」とよばれる物質に変換されます。

実はこのアセトアルデヒドが、アルコールが分解されて生成される毒素なのです。しかし肝臓は有能です。今度は「アセトアルデヒド脱水素酵素」と呼ばれる酵素でこの毒素を分解します。

アセトアルデヒドが分解されると、無毒の「酢酸」が生成されます。これによって、無事肝臓でアルコール代謝が完了し、毒素の解毒にも成功してめでたしめでたしのハッピーエンド・・・かに思われるでしょう。

ところが、そう単純な話でもないのです。確かに一定量のアルコールであれば、有能な肝臓はアルコールをほぼ完全に代謝することができます。

しかし肝臓が代謝できる許容量を超えると、まずいことが起こります。

肝臓が代謝できない分のアセトアルデヒドは依然毒素を含んだままです。代謝しきれなかったアセトアルデヒドの毒素は、肝細胞を毒することになります。しかも、それだけにとどまりません。

アセトアルデヒドが毒素のまま血中に運び込まれると、全身性のさまざまな問題が起こります。たとえば脳では「酔い」の原因となる問題が起こります。「二日酔い」は、代謝されなかった大量の毒素の影響です。

いかがでしょうか?アルコールによって肝臓がダメージを負い、ほかにもいろいろな弊害が現れるメカニズムがお分かりいただけたかと思います。

アルコール過剰摂取による具体的な肝臓への悪影響は?

お酒の飲みすぎによって肝臓を害するというお話しはよく知られるところでしょう。たとえば脂肪肝、肝炎、肝硬変など、重い響きを伴う肝疾患がイメージされると思います。

脂肪肝が重篤な肝疾患のはじまりですから、アルコールの摂りすぎによって脂肪肝が起こるメカニズム(というか簡単な原理)に今度は迫りたいと思います。

お酒が好きな人は要注意!こうして起こる脂肪肝!

小腸で血中に吸収されたアルコールが肝臓に到達すると、アセトアルデヒドへと代謝され、さらにアセトアルデヒドが酢酸に代謝され、解毒が完了します。ここまでが「アルコール代謝」です。

脂肪肝というのは、肝臓に脂肪が付着するトラブルですが、その詳細のメカニズムはかなり難しい話になってしまいます。ただ、アルコール代謝と脂肪の燃焼は同時に行われないという肝臓の特徴と関係します。

肝臓は代謝・解毒・胆汁生成および分泌が主な働きですが、加えて「貯蔵」の働きもあります。とすると、肝臓がアルコール代謝をしている時間が長ければ長いほど、脂肪の蓄積が進むことになります。

この脂肪が肝臓に付着した状態が、お酒好きの人が恐れる「脂肪肝」なのです。

ところで、「アセトアルデヒドが肝臓を毒する」というお話しをしましたが、脂肪肝のところでは、アセトアルデヒドはほぼ無関係でした。肝心の「肝臓への害」についても触れておかなければなりませんね。

アセトアルデヒドは肝臓にどんな影響を与える?

アセトアルデヒド自身が毒素と説明されますが、実は肝細胞に対してその毒素のパワーがより強力になるという特徴があります。このことを一般に「アセトアルデヒドの肝毒性」と呼びます。

アセトアルデヒドは肝細胞レベルでも代謝が行われ、結果的に肝細胞が破壊されることになるわけですが、この部分はミトコンドリアレベルの非常に難しいメカニズムになってしまいます。

イメージとしては、アセトアルデヒドが肝細胞で代謝される過程でさまざまな補酵素によって多様な物質を合成し、これらが寄ってたかって肝細胞や微小血管を破壊するといった感じです。

同時に脂肪肝も促進し、脂肪肝自体も肝細胞に対して悪影響を与えます。これらの相乗的な影響が、脂肪肝から肝炎、肝硬変へのステージ進行の原因になります。

また、アセトアルデヒドの肝毒性には強い発がん作用も伴います。肝硬変になると肝細胞癌の発症確率が高まる傾向とも関係しています。ですから「お酒を飲むとがんになる」といういわれは、根も葉もない話でもないのです。

ただし、アルコール自体に発がん性があるわけではなく、あくまでもアセトアルデヒドという毒素に発がん性が高いこと、さらには肝硬変で肝細胞変性が進むとがん化しやすくなることで、「お酒をを飲むと・・・」と曲解されるようです。

少し難しい話になってしまったかもしれませんが、アセトアルデヒドには肝細胞や微小血管などの肝組織を破壊する、つまり肝毒性を伴うことをたまには思い出しながらお酒を飲んでいただきたいと思います。

「沈黙の臓器」、「化学工場」などの異名をとる肝臓

肝臓は「沈黙の臓器」の異名をとることはよく知られると思います。また、ここまでのお話しからもわかるように、非常に多くの酵素や合成物を生み出す臓器でもあります。

そのため肝臓は「化学工場」の異名もとります。そのくらい多機能な臓器であり、それだけ多くの栄養・毒素を含んだ血液が流れ込み、流れ出す重要な臓器でもあるのです。

厚労省が推奨するアルコール摂取量の上限は「20mL/日」です。ただ、肝臓にも個性があって、人によって脱水素酵素(代謝の際に必要になる酵素)の分泌量や濃度が異なります。

ですから、ザルに水を流しこむようにお酒を飲める人もいれば、おちょこ1杯で赤くなり2杯で青くなって3杯目でひっくり返ってしまう人もいるのです。厚労省の推奨はあくまでも「目安」です。

そういった肝臓の個性と、今回お話しした飲酒のリスクを踏まえながら、肝臓のケアを怠らず、末永くお酒を楽しめることをお祈りします。

この記事をシェア

合わせて読みたい

ページ先頭に戻る