肝臓の働きがすぐわかる!薬学博士がかんたん解説

私たちの身体の中でとても重要な役割を果たしてくれている肝臓ですが、その働きや仕組みについてささっと人に話せるくらい、ご存じでしょうか。

「肝心(肝腎とも書きます)」とは大事なことを意味しますが、その語源は、肝臓と心臓(あるいは腎臓)が、身体の中でもとりわけ重要な臓器であることに由来しています。

ここでは、私たちの身体の中でも極めて重要な役割を担っている肝臓の働きと仕組みについて、薬学博士がとても分かりやすく簡単に解説いたします。

肝臓って意外と重い?肝臓の重さと位置

まず、肝臓の仕組みについて知るために、肝臓の場所とかたちを確認していきましょう。

肝臓の重さは「1~1.5kg 程度」で、人体の臓器の中では脳と並ぶ最大の臓器と言われています。

1kgといえば1lの牛乳パック1本分、1.5kgは500mlのペットボトル飲料が3本分そうとうです。けっこう重そう!と感じませんか?

肝臓の位置は、横隔膜のちょうど下になります。

人体における肝臓の位置をあらわすイラスト
(出典:肝臓ってどこにあるの? 肝機能の数値・肝臓の数値を調べる肝機能ナビ – 田辺三菱製薬)

肋骨のやや右下にありますが、右側に分厚く、左側に小さい三角形をしています。

私たちが生きるうえで重要!肝臓の主な3つの働き

肝臓の働きを例えるなら、「発電所」と「清掃工場」が合わさったようなものとイメージすると分かりやすいでしょう。

発電所 私たちが口にした食べ物を化学的に分解することで栄養にしたり、エネルギーを生み出したりする働き
清掃工場

アルコールや薬といった、そのままでは身体の毒になってしまう化合物を分解する働き

この中で肝臓の働きは大まかに3つに分類することができます。

  1. 代謝によるエネルギーの生成と貯蔵
  2. 解毒
  3. 胆汁の生成と分泌

肝臓の3つの働きをあらわしたイラスト
(出典:主な3つの働き 肝機能の数値・肝臓の数値を調べる肝機能ナビ – 田辺三菱製薬)

ひとつずつ見ていきましょう。

肝臓の働き1:代謝によるエネルギーの生成と貯蔵

口から摂取した食べ物は、そのままの状態では何の足しにもなりません。

食べ物は分解されてはじめて、我々の身体でエネルギーとして利用することができます。

肝臓では酵素といって、物質を化学的に分解する働きを持つ物質を作りだしています。この肝臓の酵素を使って物質を変化させることを代謝といいます。

代謝とは、ある物質の化学結合を切る、すなわち物質の分子構造において決められた部分に作用して物質を分解して小さくしたり、あるいは何かを結合させることで物質の性質を変えたりする働きのことをいいます。

代謝の目的は、食べ物中に含まれる物質を栄養やエネルギーに変えるためです。

また、肝臓は、糖や脂肪といった栄養素を貯える働きもします。

小腸から吸収された糖のうち、そのとき過剰となった糖をグリコーゲンとして肝臓で貯蔵します。また、必要となったときに、グリコーゲンは分解され、糖として体内で消費されます。

肝臓は、脂肪を中性脂肪として貯えます。これがたくさん貯えられすぎると脂肪肝となってしまうということをどこかで聞いたことがあるかと思います。

このように、肝臓には食べ物から栄養素を取り出し、エネルギーに変え、また過剰となった栄養素を貯蔵する働きがあります。

一方、代謝は、服用された薬にも作用します。

薬が体内にずっと残ったままでは副作用の原因となり、身体に対して悪影響を及ぼす恐れがあります。

そこで、肝臓では、薬のような体外から取り入れられた化学物質を代謝することによって体外に排泄されやすい化合物に変化させる働きをします。

また代謝と聞くと、基礎代謝を連想するひともいるでしょう。

基礎代謝とは、じっと何もしないでいるときに消費されるエネルギーのことで、血液の循環や呼吸、体温を保つなどいわゆる生命を維持するためにエネルギーが費やされます。

基礎代謝を上げるとエネルギーをたくさん消費することができることから、太りにくい体質になるため、ダイエットでも重要視されています。

私たちの身体の中で基礎代謝がもっとも高いのは筋肉ですが、その次に多いのが肝臓で、全基礎代謝のうち27%程度を占めているといわれています。

基礎代謝が大きいことからも肝臓がいかに働き者であるかが分かりますね。

肝臓の働き2:解毒

肝臓は、薬の代謝と同様に、体内にそのまま残っていては毒になってしまう有害物質を無毒化します。

具体的には、アルコールや体内で発生するアンモニアといった有害物質を酵素によって分解することで無毒化します。

もっとも分かりやすいアルコールを例にとって見てみましょう。

アルコールが身体に及ぼす作用とは、もちろん「酔い」ですが、アルコールは酵素によって酸化を受けてアセトアルデヒドという物質に変化します。

アセトアルデヒドは、頭痛などの二日酔いを及ぼす原因物質であることが知られており、毒性もアルコールの10倍であるため、そのまま身体に残っていたらたいへんなことになります。

そこで、肝臓では、アセトアルデヒドをさらに酵素で酸化させて、酢酸に変えてしまいます。

最終的に酢酸は、水や二酸化炭素となって、汗や尿、呼気などから体外に排泄されます。

私たちがお酒をのんびり飲んでいる間にも、肝臓はたいへんな活躍をしているのだということを、肝臓だけに、肝に銘じておきましょう。

肝臓の働き3:胆汁の生成と分泌

肝臓では、胆汁といって、脂肪の吸収に大きな役割を持つ液体を生成し、また分泌します。

胆汁と聞くと、胆嚢を連想される方も多いと思います。胆嚢は、肝臓で生成された胆汁を貯える臓器です。

貯えられた胆汁は、胆嚢で濃縮され、食事をした後などに十二指腸から排出され、小腸で脂肪の吸収を助けます。

胆汁の主成分は、胆汁酸です。胆汁は、脂肪の他に、脂溶性ビタミンといった脂溶性の高い栄養素の吸収を助ける役割があります。

ちなみに、胆汁の中には、胆汁色素というものがあり、主にビリルビンがよく知られています。

ビリルビンは、元々はヘモグロビンという赤血球中に含まれる酸素を運ぶ役割を持つ物質の代謝によって生成される化合物です。

ビリルビンは、通常便となって排泄されます。健康な便が茶色いのもビリルビンがあるからです。

しかし、肝臓の働きが悪くなるとビリルビンが身体に溜まり、血液中を大量に循環することが知られています。これがいわゆる黄疸の症状です。

肝臓とは、自らが代謝や解毒をして働くだけでなく、胆汁を生成して、他の臓器での吸収などにも大きな役割を果たしていることがこれでよく分かりました。

では、次に、肝臓の仕組みやその驚くべき能力について見ていきましょう。

肝臓と周りの臓器との関係

肝臓は胃の右側、大腸にぐるりと囲まれた小腸の上に位置しています。ちなみに胆嚢は、胃と小腸の間にある十二指腸と肝臓をつなぐ途中に位置しています。

これだけ臓器がひしめいているところを想像すると、ちょうど工場が立ち並ぶ産業地帯のような感じがしますね。他の臓器との関係について整理してみましょう。

肝臓が位置しているところはその機能にも緻密に関係していますので、肝臓の働きを少し振り返りながら、周囲の臓器とどのように連携しているかを見ていきましょう。

肝臓から小腸へのかけはし、門脈

まずは小腸と肝臓のつながりについて紹介します。小腸と肝臓をつなぐ血管のことを「門脈(もんみゃく)」といいます。

肝臓の構造をあらわしたイラスト
(出典:肝臓の構造 1 肝機能の数値・肝臓の数値を調べる肝機能ナビ – 田辺三菱製薬)

門脈は小腸などの消化菅から吸収した栄養素などを肝臓に送るという大事な役割を担っています。

私たちが口から食べたものは、胃で消化され、小腸へと運ばれます。

小腸では、食べものの栄養素(主に炭水化物、タンパク質、脂肪)などが吸収されます。

栄養素は、小腸でさらに分解されて、糖、アミノ酸、脂質として吸収されて、門脈を通じて肝臓に運ばれ、そこでエネルギーとして利用されます。

薬を口から服用した場合も、同様のルートを辿りながら肝臓で代謝を受けて体外に排泄されます。

まさに受付!胆嚢

肝臓のすぐ下には、肝臓で生成された胆汁を貯める「胆嚢(たんのう)」があります。

私たちが食べものを口にした後、胆嚢から十二指腸という胃から小腸の入り口にあたる場所に胆汁が排出されます。

ちなみにこの十二指腸は、隣にある膵臓からも膵液が出てくる場所にもなっており、小腸の入り口で食べものを出迎える、まさに受付のような役割を担っています。

肝臓だけにある特別な力、再生能力がすごすぎる

肝臓には再生能力、すなわち切除されても元に戻る力が備わっていますが、そのような特別な能力があるのは私たちの身体の中でも肝臓だけです。

なぜ肝臓にだけそのような特殊能力が備わっているのでしょうか?実は、その理由についてははっきりとしたことはまだ分かっていません。

肝臓の主な細胞は肝細胞ですが、おそらく肝細胞と他の細胞との違いを見ていくことで何かが見つかるかもしれません。

肝臓が再生するメカニズムについて、最近、東京大学での研究から少しだけ明らかになったことがあるので紹介します。

この研究によると、「肝臓の再生には、肝細胞の増殖以外に、肝細胞の肥大化が大きく寄与している」とのこと。

(参考:東京大学ホームページ:肝臓の再生を担う肝細胞の驚くべき性質を解明)

つまり!例えば肝臓が70%というように大幅に切除された場合、肝細胞が細胞分裂を繰り返して数を増やすこと以外に、ひとつひとつの肝細胞の大きさが大きく変化しているのだということなのです。

そのため、肝臓の切除が30%というように小さいときは、肝細胞が大きくなるだけで肝臓は元の大きさに戻るんです。

肝臓にはまだまだ明らかになっていない人体の神秘的な秘密がありそうですね。

肝臓について、これからいろいろな研究が進められる中、新たな発見があり、そこからまた新しい治療法が生まれてくることでしょう。

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