肝硬変の原因はさまざま。小さな肝臓トラブルの悪化さえリスクになる


良いことにしても悪いことにしても、特に健康と関連することがらにはそれが起こる原因が必ずあります。

「肝硬変(かんこうへん)」は最も怖い肝臓病の1つですが、もちろん原因があって招かれる脅威です。

肝臓といえばアルコールや肥満とのかかわりが大きいのはご存知ですね。

今回はお酒、肥満・メタボリックシンドロームをはじめ、その他いろいろなファクターが考えられる「肝硬変の原因」について検証してきます。

肝硬変の主要な原因は段階的に考えることが大切!

肝硬変は非常に恐ろしい肝臓の病気です。しかも「肝臓の病気」はさまざまな原因が考えられます。

当然、肝硬変にもさまざまな原因が考えられます。ある日朝起きたら突然肝硬変になっていた、などということはあり得ません。

肝臓の状態が徐々に悪化して最終的に肝硬変になる

確かに肝臓は「沈黙の臓器」などと呼ばれるくらいですから、肝臓の状態が思わしくなくても自覚症が目立たないことが多いです。それだけに、気づかないうちに悪化していたということは十分あります。

しかし、ちょっと体調が悪いな・・・と感じて病院に行っていろいろ調べてみたら、いきなり肝硬変でした!などということはまず考えられません。

ほんとうにないの?と思うかもしれませんが、よほど特殊な事情を除いては「急性肝硬変」などあり得ないのです。あるとすれば自覚症があっても放置していたケースや、急性肝炎が急激に悪化して肝硬変に至った、という不運くらいでしょう。

このケースを急性肝硬変と解釈するにしても、ここで検証する「主要な原因」には含まれません。

「主要な原因」でいうなら、やはり脂肪肝からはじまるステージ進行を伴う肝硬変です。つまり、「肝硬変の前ステージ」を検証する必要があります。

肝臓の悪化により肝硬変に至るプロセスはいろいろ考えられます。肝硬変ほどの重度肝疾患に「生活習慣の悪化」という原因を求めるのであれば、アルコールや肥満・メタボなどで発症する脂肪肝がスタートです。

お酒の飲みすぎであればアルコール性脂肪肝、そうでなければ非アルコール性脂肪肝です。

いずれにしても、脂肪肝が悪化して慢性肝炎や肝線維症(かんせんいしょう)に至るリスクが考えられます。そして最終的に、肝硬変になるのです。

肝疾患の段階進行をあらわしたイラスト

肝臓を悪くしてしまう原因は、アルコールや肥満・メタボなどの「生活習慣の悪化」が大きいでしょう。なので「肝硬変の原因」という見方は正直、不自然な感じがします。

ただ、上記のステージ進行を考えるのであれば、やはり肝硬変の原因の1つは「生活習慣の悪化」を挙げなければならないでしょう。過度な飲酒、食べすぎ、運動不足、睡眠不足など、すべてが肝硬変の原因なのです。

ただし、意外に思われるかもしれませんが、アルコールや肥満自体が肝硬変の原因になるパーセンテージは決して高くなく、肝硬変の原因の1割程度にとどまります。主要原因ではあっても最大原因ではないのです。

では、残りの90%はいったいどんな原因が考えられるのか、実は肝硬変を考える上でより重要なのがこの部分であり、怖い部分でもあるのです。

生活習慣以外の肝硬変の9つの原因

肝硬変の原因のうち、実に80%以上が「ウイルス性肝炎」です。上で「肝炎から移行して肝硬変になる」とお話しましたが、アルコールや肥満といった生活習慣だけがその原因ではなかったんですね。

ウイルス性肝炎以外にも、生活習慣の悪化・乱れとは別の原因がありますので、まとめてみることにしましょう。

アルコールや肥満などの生活習慣とは直接関係ない原因は、大きく分けて次の9種類に分類されます。

原因1~肝硬変の最大リスクはウイルス性肝炎!

ウイルス性肝炎にもいろいろなウイルスタイプがありますが、日本で特に懸念されるウイルスとして、B型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)があります。

肝硬変は特に、HCVとのかかわりが大きいことがわかっています。

HCV感染者のうち、慢性C型肝炎にかかっている人の半数以上が肝硬変へと移行するということですから、C型肝炎は非常にリスキーなウイルスおよび肝炎であるといえます。

HBV感染者のうち、特定の型のウイルス感染症(HBsAg、 HBeAg継続的慢性B型肝炎)の場合、C型肝炎と同程度の肝硬変への移行リスクがあるという統計データがあることにも注意が必要です。

原因2~長期的な薬物(毒物)利用が肝硬変のリスクを高める

たとえ病気を治したり病気の症状を緩和したりする「薬」であっても、肝臓にとっては「毒」として代謝されることが多いです。肝臓の役割の多くは「代謝」が担います。

アルコールを飲みすぎると、アルコールはアセトアルデヒドという「毒」が肝臓を害し、脂肪肝や肝炎などの原因となり、それが最終的に肝硬変への移行を招きます。薬でもまったくこれと同様のことがいえます。

薬の種類はあまりにも多様なので、肝毒性の強弱による肝臓への影響の大小は当然生じますが、これに関しては、薬を処方する医療機関にお問い合わせいただきたいと思います。

原因3~代謝不良による新陳代謝性肝硬変

肝臓は代謝を行う臓器ですから、代謝が行われなくなれば、肝硬変をはじめとしたさまざまな肝障害が起こるのは当然のことですよね・・・ただ、なぜ代謝が行われなくなるのか、というところに1つポイントがあります。

食べすぎや飲みすぎでも、突き詰めれば代謝が間に合わなくなる、つまりは代謝不良が起こって脂肪肝や肝炎、肝硬変も起こるわけですが、ここではそういった「生活習慣病としての肝硬変」以外の見方でアプローチしています。

生活習慣以外の要因で肝臓の代謝不良が起こるのは、膠原病(こうげんびょう)などもととなる重い病気が原因となっていたり、まれに遺伝が原因だったりします。なかなか分類が難しいですが、原因不明ではありません。

肝臓の代謝というよりも、全身の新陳代謝がうまく行われない直接・間接的な弊害として、肝臓の代謝不良が起こると解釈していただいて問題ないでしょう。

原因4~肝硬変の一種である肝静脈閉塞性肝硬化が原因

肝臓は、たくさんの血液が順調に運ばれてくることではじめて満足な仕事ができます。血液を循環させているのは「心臓」です。心臓にトラブルが起こると、肝臓の働きも自然と鈍ってきます。

その結果起こるのが「肝静脈閉塞性肝硬化(かんじょうみゃくへいそくせいかんこうか)」です。たとえば、長期的、反復的な心不全では肝静脈閉塞性肝硬化が起こりやすくなります。これが完全な肝硬変を招くのです。

肝静脈閉塞性肝硬化が起こると、血液の循環が悪い環境下で肝臓に血液がたまりやすくなります。結果、肝臓で必要となる酸素が不足し、肝細胞がダメになってしまうのです。

肝細胞がダメになると、肝組織の線維化(せんいか)がはじまります。肝臓の線維化は、高い確率で肝硬変を招きます。

線維化についての詳細は「肝硬変とは?」の記事をご覧ください。

原因5~原理は肝静脈閉塞性肝硬化と同じ!胆汁性肝硬変

「原因4」のところでは、肝臓に血液がたまってそちらに酸素がとられてしまうため、肝細胞が酸欠に陥ってダメになっていく・・・というなんとなく悲しげなお話をしました。

実は胆汁(たんじゅう)性肝硬変についても原理はまったく同じです。血液のかわりに、肝臓で生成された老廃物を流し出す役割がある胆汁がうっ滞(流れないこと)することで、やはり肝細胞の酸欠が起こります。

その結果、原因4のところでお話したことと同じプロセスで肝硬変に至ります。胆汁うっ滞が起こる原因としては、胆石症や胆管がんなど胆道系のトラブルが有力です。

ただし、上記の胆道系トラブルはかなりの痛みや強い違和感を覚えるため、無自覚のまま胆汁性肝硬変に移行するとはどうにも考えにくいフシがあります。

ということは、やはり新陳代謝が悪化したと同時に胆道系の何らかのトラブルが起こることで、より胆汁性肝硬変のリスクが高まるのではないか、と推測されます。

とはいえ、中にはほとんど痛みを伴わない胆石もあるといわれますので、胆石単体が胆汁性肝硬変の原因である可能性もゼロではありません。

原因6~慢性的な栄養不良が肝硬変を引き起こすことも・・・

肝臓の主要な仕事は「代謝」であると再三お話しました。代謝というのは、肝臓に送られてきた血中の栄養素を、次に送られる臓器で都合よくつかえるようにするための物質変化のことです。

とはいえ肝臓は魔法をつかって物質を変化させているわけでは無論ありません。「酵素」によって「化学変化」を起こして既存の物質を別の物質に転化させているのです。

たとえば、アルコールを分解してアセトアルデヒドを生成するときに活躍する酵素は「アルコール脱水素酵素」であり、毒物のアセトアルデヒドを無毒の酢酸に転化するのは「アセトアルデヒド脱水素酵素」という酵素です。

そのため肝臓は「沈黙の・・・」のほかに「化学工場」などにたとえられることもあるんです。ところが、慢性的な栄養不良が起こってしまうと、代謝の際に必要な酵素が肝臓でつくられなくなってしまうのです。

つくられなくなるというよりも、つくりだすエネルギーがなくなってしまうと考えるとわかりやすいですね。早い話が「燃料切れ」です。同じ燃料切れでも車が止まってしまうのと肝硬変になってしまうのとでは大違いですが。

「過度なダイエットは健康を害する」ということはみなさんもよくご存知かと思いますが、過度なダイエットに加えていろいろなファクターが重なると、もしかしたら肝硬変を起こすこともあるのかもしれませんね・・・

原因7~寄生虫の寄生が肝硬変を呼ぶ!

寄生虫と肝臓トラブルの関係として最もよく知られるのが「エキノコックス症」です。しかし肝硬変とのかかわりがより密接なのは、エキノコックス以外の寄生虫です。

特に「住血吸虫(じゅうきゅうけつちゅう)」と呼ばれる不思議な形をした寄生虫によって、肝硬変が起こるリスクが高いと考えられています。

住吸血虫は体長1㎝~3㎝程度とけっこう長く、肝臓の門脈に寄生して赤血球を食べます。こんな小さな寄生虫が肝硬変の原因になるんですね・・・

原因8~梅毒ウイルスキャリアーの妊婦さんが出産したお子さんのリスク

新生児のお母さんが梅毒ウイルスを保菌していると、生まれてくるお子さんが先天性の肝硬変にかかってしまう可能性があります。この肝硬変を特に、「先天性梅毒性肝硬変」と呼びます。

原因9~上記のいずれにも当てはまらない(つまり原因不明の)肝硬変もある!

これだけさまざまな角度から肝硬変の原因を検証してもなお、原因がわからない種類の肝硬変もあるんです。遺伝や既往症などさまざまなファクターに一因があるかもしれないとは考えられているのですが、明確ではありません。

原因を考える前に・・・まずは普段から肝臓をいたわることが大切

パーセンテージが大きい肝硬変の原因としては、確かにウイルス性肝炎や薬物の長期利用など、私たちの生活習慣とは一線を画したところにあるといえます。しかしそれはある意味、不可抗力的な原因です。

では、生活習慣に起因する肝硬変はどうかというと、上でもお話したとおり、「最大の原因ではないが主要な原因ではある」という事実を踏まえて考えなければなりません。

私たちが防ぐことができる確率が高いのは、ウイルス性肝炎や薬物長期利用ではなく、生活習慣の問題が原因となっている肝硬変のほうです。確率は低くても、かかってしまえばどちらも同じ重大疾患の肝硬変なのです。

お医者さんは「まあ脂肪肝ですから、心配ないですよ」というかもしれません。しかしこれを放置して悪化させたら肝硬変のリスクは増大します。「今」心配ない脂肪肝は、「将来の肝硬変」の原因になるのです。

そういった基本的なカラクリをどうか忘れず、普段から肝臓をいたわってあげることを少しでも考えていただきたいと思います。

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