【HCV抗原・抗体】血液検査でC型肝炎の感染有無を知る重要性

肝疾患はいくつかの種類に分類されますが、その代表的な疾患は「慢性肝炎」と呼ばれる病態です。

肝炎にも大きくわけて2つの種類があり、脂肪肝が悪化して至ることが多い慢性肝炎と、ウイルス性肝炎に分かれます。

ウイルス性肝炎は、日本人に多くみられるB型、C型肝炎がよく知られます。実はほかにもA型、D型、E型の3種類のウイルス性肝炎がありますが、今回はC型肝炎について、特にその検査方法についてお話します。

C型肝炎ウイルス感染の有無は抗体の測定が重要なカギを握る!

肝疾患の多くは、肝機能の低下により判明します。たとえばAST(GOT)やALT(GPT)の数値が高ければ脂肪肝の疑いがあり、γGTP(ガンマGTP)の値が高ければアルコール性脂肪肝が疑われるといった具合です。

ところが、C型肝炎ウイルス(HCV=Hepatitis C Virus)の場合、肝機能の数値には特に異常が現れないことが多く、一般的な肝疾患と異なり、HCV感染を疑う重要な手がかりが1つ少ないと考えなければなりません。

ただでさえ「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓ですが、早期治療が求められる慢性のHCV感染においても、初期症状はほとんど無自覚であることから、いかにして発見の手がかりをつかむかが重要になります。

感染してから10~20年の潜伏期間!?HCV感染による脅威は「進行の遅さ」

C型肝炎というと、おそらく多くの人は「生命にかかわる非常に怖いウイルス性肝疾患」と認識すると思います。

ただ、C型肝炎の場合、生命にかかわるからという理由はもちろんですが、それ以外にも「怖い」理由があります。

それは、C型肝炎の症状があまりにも特徴的だからです。HCVキャリア(ウイルス感染者・保菌者)のほとんどが「無症候性キャリア」と呼ばれる、長期間症状を自覚しないキャリアなのです。

その理由は、HCV感染症の進行が極めて遅いから…と説明されることになるわけですが、HCVが感染してから10~20年の潜伏期間を経て、ようやく発症するのがC型肝炎の怖さです。

B型肝炎ウイルスの場合、自然に排除されることもありますが、HCVに関しては、その望みはほとんどありません(確率ゼロではない)。HCVが体内に放置されることで、やがて慢性肝炎へと移行します。

そのため、非常に怖い話ですが、未知のHCVキャリアが日本国内にも相当数存在する(既知のキャリアも含めて推定200万人~240万人)と考えられます。

何しろ、10年以上もの間まったくといっていいほど症状が現れないのがC型肝炎ですから、知らぬ間に血液感染(代表的なところでは性交渉時の血液接触)が起こっていたとしても不思議はないといえるのかもしれません。

単にウイルスが体内にいるだけならよいのですが、HCVキャリアの肝がんの発症リスクは、ノンキャリアにくらべて700倍とも800倍ともいわれるほどですから、HCVが想像を絶する脅威となることもご理解いただけるかと思います。

HCVキャリアの実に70%にもあたるキャリアが、10年後には肝がんを発症するという統計もあります。肝硬変を経て肝がんに至るケースが多いですから、肝硬変の発症リスクは同等以上の可能性もあります。

HCV感染の有無を調べるための検査方法

少し前置きが長くなってしまいましたが、ここからHCV感染の有無を調べる検査方法にお話しを移します。

HCV感染の有無を調べるための検査も、一般的な肝機能検査同様、「血液検査」によって行われます。

ウイルスの有無を調べる検査のことをふつう「ウイルスマーカー検査」と呼びますが、ウイルスマーカー検査の場合、多くは抗原(ウイルスやアレルゲン)をマーカー(検査の判定材料)としてその有無がわかります。

しかしHCVの場合は、抗原ではなく、HCVの感染によって体内につくられる抗体(抗原を攻撃する兵士的な役割を担う)の有無をはじめに調べます。HCV抗体があれば、被験者はHCVに感染している可能性が高まります。

HCV抗体が見つかってもその時点で感染が確定するわけではありませんので、HCV抗体が見つかったらさらに詳細な血液検査を行い、今度は抗原についてもチェックします。

抗原の検査は、HCVコア抗原とHCV RNA(ウイルス遺伝子の塩基配列の一部)を調べます。大まかな流れは以下のようになります。

ウイルスマーカー 抗体・抗原・ウイルスの概要 検査結果の判定
HCV抗体 HCV感染によって体内でつくられる抗体 抗体価(相対的な抗体の量)が高ければ現在HCV感染の確率が高く、低ければ過去の感染の確率が高い
HCVコア抗原 HCV内部のたんぱく質抗原 陽性の場合、HCV感染の確率は極めて高い
HCV RNA HCVの遺伝子で、つまりはHCV RNAが見つかることでHCV感染が確定する 陽性でHCV感染がほぼ確定し、ウイルスの量を調べる際にも有効なデータとなる

基本的には、まずHCV抗体の有無をチェックすることで感染の有無を判断することになります。

HCV感染リスクと検査結果の解釈について考える

多くは生活習慣病のひとつと説明される「肝炎」ですが、C型肝炎をはじめとしたウイルス性肝炎の場合、生活習慣とは原則無関係に起こる肝炎です。その意味で特殊な肝炎であると考えられがちかもしれません。

しかし実際には、慢性肝炎の約90%がウイルス性肝炎であり、慢性肝炎全体の約70%がC型肝炎です。このデータの獲得にも、上記のウイルスマーカー検査が大きく貢献しています。

この事実は極めて重大であり、上記の肝炎ウイルスマーカー検査の重さもおわかりいただけるかと思います。

時代とともに変化するHCVの感染経路

C型肝炎ウイルス・HCVは、その感染経路がB型肝炎のそれに非常に似通っています。かつては輸血や血液製剤など、医療現場の問題に大きな原因があったと考えられるのはB型肝炎問題と同様です。

かつては妊娠後検査が実施されなかったことも踏まえるなら、母子感染の責任の比重も行政側にあったと考えるのが自然でしょう。妊娠後検査実施により、近年では母子感染リスクも減少してきています。

代わって増加の傾向をしめしているのが、性交渉やピアス、タトゥーなどによる直接的な血液感染です。ただし、HCV感染は潜伏期間が長いという特徴があります。

今症状が出ていなくても、あるいは、性交渉やピアス、タトゥーなどの心あたりがなくても、昔輸血の経験がある、血液製剤を使用した経験がある人は、HCV感染のリスクがゼロではないのです。

特に、制度が改正された1992年以前の輸血経験者は検査をすることを強くおすすめします。「一生に一度だけの検査」が、将来の肝硬変や肝がんを防ぐかもしれません。

HCV抗体検査の結果をどう解釈すべきか

上記のリスクや感染経路からも、HCVはかなり厄介なウイルスであることはご理解いただけたかと思いますが、もう1つ厄介なのは、HCVウイルスは感染力がそこまで強くないという点です。

感染力が強くないならむしろ好都合ではないかと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

たとえば、HCV抗体検査で陰性だったとしても安心できないのも、HCVの感染力が弱いことが関係しています。

どういうことかというと、HCV抗体検査が陰性(異常なし)であったとしても、1か月後に陽性となるケースもあるからです。感染力が弱いため、血中の抗体がつくられるまでに最低でも1か月はかかります。

また、ごくまれに「抗体を調べても検出できないHCVウイルス」もあります。

という具合に、つかみどころがないというか、とにかくいろいろなケースが起こりうるのがHCV感染とその検査なのです。

抗原の検査は原則抗体検査が陽性だった場合のみ行われるので、抗体検査で陰性だったとしても、一抹の不安が残る部分も正直あります。

「一生に一度の検査」を実施する価値は高い!

今回はC型肝炎ウイルス・HCV感染とその検査方法についてお話ししてきました。C型肝炎の場合、潜伏期間が長く、その間のウイルスの動向が極めて多様であるため、なかなかお伝えしにくいところも正直ありました。

ただひとつ言えることは、10年も20年も潜伏しているウイルスですから、どこかで一度検査をして異常がなければひとまず安心できるということです。感染していたらたいへんなウイルスでもあります。

その意味では、「一生に一度のHCV検査」も決してムダにはならないはずです。機会をみて、一度は受けたほうがよい検査なのかもしれませんね。

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