ウイルス性肝炎の種類と特徴。それぞれの感染経路は?

目に見えないウイルスが感染すると、生命の危険も視野に入れなければならない重大疾患が数多くあります。そのひとつが「肝炎」です。

肝炎は「お酒の飲みすぎ」でかかる生活習慣病のイメージがあるかもしれませんね。

確かにお酒の飲みすぎで肝炎を発症する患者さんも多いですが、比率でいえばアルコールよりもウイルスが原因で発症する肝炎のほうがはるかに高いです。

ウイルスが原因で起こる肝炎「ウイルス性肝炎」について解説いたします。

要警戒!ウイルス性肝炎にはたくさん種類がある

ウイルス性肝炎は目に見えないウイルスが原因で発症します。目に見えない以上、その脅威が身近に迫っていたとしても、自分の目で確かめることができません。ウイルス性肝炎はそれだけ予防が難しいことを意味します。

とすると、予防のためには現時点で推測される感染経路をしっかりと精査する必要があります。

しかし実際には、ウイルスのタイプによって感染経路がそれぞれ異なるため、ウイルス性肝炎はかなりやっかいな感染症であるといえます。

肝炎の種類」のページでも触れましたが、ウイルス性肝炎には

  • A型肝炎
  • B型肝炎
  • C型肝炎
  • D型肝炎
  • E型肝炎

の5つのタイプがあり、それぞれに特徴が異なります。

食べ物から感染する!意外と多いA型肝炎の概要と特徴

B型肝炎やC型肝炎にくらべると、日本におけるA型肝炎発症の件数はそれほど多くないイメージがあるかもしれませんが、実は、年度によってはA型肝炎ウイルスの感染報告が最も多い年もあります。

A型肝炎ウイルスは劣悪な環境下ではびこり、感染しやすい特徴があるので、日本では多くならなそうな印象もありますが、口から簡単に入ってきやすいことが原因でA型肝炎は多くなりやすいのです。

「糞口(ふんこう)感染」といって、ヒトや動物の糞便が口に入ることでA型肝炎に感染しやすい特徴があります。しかし公衆衛生では世界トップクラスの充実を誇る現代日本では、そのリスクはあまり大きくないといえるのです。

ただし、「牡蠣(かき)」など一部魚介類の生食からA型肝炎に感染したという事例は、国内で毎年のように報告されます。

ですから衛生面で充実した日本でも、A型肝炎がまったくのノーリスクということではないんです。

また、海外渡航者がA型肝炎ウイルスに感染している可能性もゼロではないため、海外帰りの人や魚介類の生食の際には十分注意が必要です。

A型肝炎は「A型急性肝炎」と呼ばれる急性症状が現れます。

非常に感染力が強い肝炎ウイルス!B型肝炎の脅威

B型肝炎の脅威については、日本ではある程度認知されていると思います。

B型肝炎ウイルスは、肝炎ウイルスの中でも非常に感染力が強いウイルスとして知られます。感染力に関して言えば、C型肝炎ウイルスよりもはるかに強いです。

B型肝炎は主に血液感染が感染経路となります。血液感染にも種類があるのですが、

  • 母子感染による「垂直感染」
  • 輸血や避妊具を用いない性行為、出血を伴う行為などによる「水平感染」

が主な血液感染の感染経路です。

感染しても潜伏期間が長く、はっきりとした自覚症状が現れるのは肝炎がかなり進行してからです。

そのため自覚症状が現れる前に抗原・抗体検査によってB型肝炎ウイルスの感染(経験)の有無を知ることもあります。

ウイルス自体の感染力は強いですが、早期に発見して早期に治療することで、肝硬変や肝がんなど重篤な肝障害への移行を食い止めることができる確率は比較的高いといえます。

肝硬変への移行リスクが高い脅威のC型肝炎ウイルス

C型肝炎ウイルスは肝硬変への移行の危険性が非常に高いウイルスで、肝硬変患者の多くがC型肝炎ウイルスのキャリアであるというデータがあります。

そのため、日本では最も恐れられている肝炎ウイルスという印象があります。

しかし感染力自体は弱いのもC型肝炎ウイルスの特徴です。B型肝炎ウイルスにくらべればはるかに感染力は弱いです。それだけに、感染したとしても免疫によって自然に排除されることもあります。

とはいえ、感染すればそれだけ肝硬変や肝がんなどへの危険性が高まるわけですから、感染経路は知っておく必要があるでしょう。

C型肝炎についても、B型肝炎同様血液感染が主な経路になります。

B型肝炎キャリアは要注意のD型肝炎ウイルス

D型肝炎もA型肝炎、E型肝炎と同じく日本では症例が非常に少ないウイルス性肝炎です。その理由は、「B型肝炎ウイルスがないと感染しても増殖することができない」という特徴を持ったウイルスだからです。

もともとはB型肝炎ウイルスに感染した肝細胞中にあったδウイルス(δ:デルタ)が前身でしたが、のちに現在の「D型肝炎ウイルス」に改名された経緯がある、少し変わった経歴の肝炎ウイルスです。

地中海、中東、アフリカ、アマゾン流域、南太平洋など世界規模で感染が確認されているウイルスではありますが、いずれもB型肝炎のキャリアが多い地域でもあります。

日本では肝炎ウイルス全体のわずか0.1%にとどまります。

D型肝炎もB型肝炎同様血液感染が主な感染経路で、感染するとB型肝炎を悪化させる特徴があります。

輸血などでB型肝炎と同時に感染するか、あるいはB型肝ウイルスキャリアがあとから単独でD型肝炎ウイルスに感染することもあります。

どこか寄生虫をイメージさせる、少し変わった肝炎ウイルスですね・・・

国内で近年増加していた!急性肝炎の一種であるE型肝炎

衛生面では世界トップクラスの日本で、ウイルス性肝炎はどちらかといえば減少の傾向にありました。

特に、A型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスは、経口感染(肝炎ウイルスが口から侵入して感染する)だけにその傾向が強いと考えられていました。

ところが国内、あるいは世界規模で、なぜかE型肝炎ウイルスは増加の傾向に一時ありました。幸い2005年をピークに減少傾向にあるようですが、従来ほとんど認知されていなかったE型肝炎ウイルスだけに少々不可解な印象もあります。

E型肝炎の年別・感染地域別報告数グラフ画像
(出典:E型肝炎の年別・感染地域別報告数-E型肝炎 1999年4月~2008年第26週(2008年7月2日現在)(国立感染症研究所感染症情報センター)より)

上記データのはっきりした要因は考えられていませんが、E型肝炎ウイルスの感染自体は以前からあったものの、情報収集の手段がなかったと考えるのが一番論理的かもしれません。

シカやイノシシなど野生住を媒介して感染するのがE型肝炎ウイルスの特徴で、その意味ではエキノコックスにも近いイメージがあります。エキノコックス同様、E型肝炎も狩猟が盛んな北海道で圧倒的に多く報告されています。

ウイルス性肝炎自体は増加傾向にないが安心はできない

肝炎のほとんどがウイルス性肝炎であるという事実から、ウイルス性肝炎は年々増加しているのではないかという印象もありますが、実はそんなことはありません。むしろ減少傾向にあるといえます。

ウイルス性肝炎の発生状況報告グラフ画像
(出典:ウイルス性肝炎 99-03年-A型肝炎とは(NIID国立感染症研究所)より)

とはいえ、このまま徐々にゼロに向かって収束していくのかというと、それもまた考えづらいといわなければなりません。

つまり、目に見えない「ウイルス」が相手だけに、油断したら危険。できるだけの予防と感染の危険性をある程度把握しておくことが重要な感染症なのです。

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