酒に弱くなった原因は肝臓にある?肝機能低下と飲酒欲求の真実

アルコール代謝の大部分は肝臓が担っているので、「最近どうもお酒が弱くなってきたな」とか「あんなに好きだったのにお酒を飲みたい気分にならない」と感じる人は、肝機能が低下したんじゃないかと考えるかもしれませんね。

関係があるといえばいえますが、ないといえばこれもまた正しいといえてしまう…そんな「肝機能の状態」と「お酒に弱くなったかなぁ」の関係について今回は取り上げます。

お酒に強い、弱いは肝臓と無関係?2つの方向から飲酒と肝機能の状態を考える

結論から述べましょう。お酒が弱くなったと感じたり、あるいは好きなお酒を依然とくらべてそんなに飲みたいと思わなくなったと感じたりすることもあると思います。いずれのケースも、基本的に肝機能低下とは関係ありません。

たとえば、肝臓を病んだために「お酒は断ってください」とお医者さんから忠告されてもお酒をやめられない人がいますよね?肝臓を病めば、当然肝機能は低下します。それでも「お酒を飲みたくなくなる」なんていうことはないんです。

実際飲酒欲求を抑制するための薬は、アルコール依存症の患者にとって有効です。特に肝臓を病んでいるアルコール依存症患者には「なくてはならないもの」です。飲酒欲求の減退やお酒が弱くなったことは、厳密な意味で肝機能とは無関係なのです。

今回のテーマでは、

  1. お酒に弱くなることと肝機能低下の間の因果関係の有無
  2. 飲酒欲求の減退と肝機能低下の間の因果関係の有無

の2つの考え方が必要です。順にみていきましょう。

酒に弱くなる理由には、肝機能低下以外の原因がある

まずは1.の「お酒に弱くなった」ケースについて考えます。

肝機能が低下するとお酒が弱くなるのではないかという仮説の根拠は、アルコール代謝の大部分を肝臓が担うところにあります。つまり、「アルコール代謝は肝機能の一環である」という考え方が根拠になる仮説です。

要は、お酒をどんどん飲んでも、肝臓がどんどんアルコール代謝してくれればお酒に弱くはならないだろうという発想に基づくわけですが、では、アルコールは肝臓でどのように代謝されるかを再確認してみましょう。

飲酒によって血中に取り込まれたアルコールが肝臓に運ばれるわけですが、確かに肝臓では運ばれてきたアルコールを代謝します。そしてアルコールの代謝能力が高いか否かでお酒に強いか弱いかが決まります。

こういう言い方をすると、「じゃあ肝機能が低下すればやっぱりお酒に弱くなるよね?」という誤解が生じるかもしれませんね。しかしここからは慎重にお話を進め、理解していただく必要があります。

運ばれたアルコールは、肝臓で「アルコール脱水素酵素」によってアセトアルデヒドという有毒物質に代謝されます。この毒素が「酔い」の原因であると考えていただいても問題ないでしょう。

有毒物質のままスルーされては身体全体がえらいことになりますし、なにより「化学工場」の異名をとる肝臓の名が廃ります。アセトアルデヒドは「アセトアルデヒド脱水素酵素」によって酢酸に代謝され、無事に無毒化されます。

お酒に強い、弱いの定義もまたあいまいですが、「酔い」を感じる時間が早いか遅いか、あるいは一定の「酔い」のレベルに達するまでの飲酒量が多いか少ないかといった部分と関係していることは間違いありません。

酔いはアセトアルデヒドの代謝と関係があります。つまり、アセトアルデヒド脱水素酵素の働きが活発であればあるほどお酒に強いということになり、活性が低ければお酒に弱いことになります。

アセトアルデヒドの活性がない人は、いわゆる「下戸(げこ=まったく飲めない人)」です。下戸の人は、お酒の味や香りが好きであるとか嫌いであるとか、そういった主観とは無関係に、お酒を受け付けません。

ということは、アセトアルデヒド脱水素酵素の活性が肝機能と関係があるか否かで、お酒に強いか弱いかと肝機能とが関係するのかどうかが決定することになります。

肝臓病やさまざまな原因によってアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が低下するのであれば、お酒が弱くなった原因が肝機能低下に求められることになりますが、そういうことではありません。

アセトアルデヒド脱水素酵素の活性は、年齢、性差、体格、人種など、つまりひっくるめていえば「遺伝」とのかかわりが大きく、肝機能が低下しているかどうかはほぼ関係ないのです。(個人差レベルの差異はあるようです)

ALDH2の低活性型、非活性型の人の割合画像
(出典:お酒に強い人、弱い人-(サッポロビール株式会社) より)

とすると、「以前よりもお酒に弱くなった」と感じられる原因は、肝機能低下、性差、人種以外のファクターに求められることになります。つまり「加齢」や「体格(筋肉量)の変化」などが最も有力な原因であると考えられるのです。

一般的な結論として:お酒に弱くなることと肝機能低下とは無関係

いかがでしょうか?急に痩せたり長期的な入院によって筋肉量が落ちたりすれば、お酒に弱くなることもあるでしょう。「以前にくらべ」という枕を伴う時点で、「加齢」のファクターが少しはかかわっているはずです。

以上から、お酒に弱くなることと肝機能低下とは、基本的には無関係であるといえるのです。

ただ、頭でそうとわかっていても、やっぱりお酒は肝臓で代謝されますし、アセトアルデヒド脱水素酵素は肝臓で合成されます。

ですから肝臓で合成される酵素の働きまでを含めて「肝機能」と呼ぶのであれば、上記の理屈は一気に覆され、「お酒が弱くなるのは肝機能低下が原因だ」と結論付けられることになってしまいます。

実際こちらの解釈のほうが一般的なのかな、という気もします。肝機能ということばの定義自体が少々あいまいなので、冒頭では「正しいといえば正しい、正しくないといえばそのとおり」という言い方になってしまいました。

また、重度な肝疾患では、アセトアルデヒド脱水素酵素が合成・分泌されなくなることもありえます。重度な肝疾患の患者がアルコール依存症でもないのにアルコールを摂取することは無論ないとは思います。

しかし仮に中等度以上の肝炎や、肝硬変など重度肝疾患の、アルコール依存症でない患者さんがお酒を飲むと、アセトアルデヒド脱水素酵素が合成・分泌されない関係で、「お酒に弱くなった」と感じることがあるかもしれません。

とはいえ、これは常識の範囲をあまりにも大きく逸脱したお話なので、一般論からははずれることになります。したがって、一般論として「お酒に弱くなることと肝機能低下とは無関係」と結論づけられることになります。

飲酒欲求はアルコール依存症!?飲みたくなくなるのは肝機能低下と無関係

アルコール依存症などによって異常にお酒を飲みたいと感じる欲求を、「病的飲酒欲求」と呼びます。逆に、病的飲酒欲求がある人は、アルコール依存症である可能性が高いです。

筆者は「アルコール依存症」の疑いがある「予備軍」です。こんなことをいうと「えっ!?」と思われるかもしれませんが、よく勘違いされるのが、アルコール依存症とアル中(手が震えたりする重度アルコール依存症)の違いです。

みなさんが想像される以上にアルコール依存症患者は多く、その予備軍も多いです。たとえば「たまにお酒が飲みたくてたまらなくなる(病的飲酒欲求)」と感じるだけで、その人はアルコール依存症が疑われてしまいます。

仮にアルコール依存がなければ、「たまらなく飲みたくなる」なんていうことは起こらないのだそうです。ホントかよ・・・と筆者も思いましたが、実際にお医者さんから聞いた話なので残念ながら(?)事実です。

では、アルコール依存症は肝臓と関係があるのかというと、これは完全に無関係です。お酒を飲みたいか飲みたくないかは、基本的には脳が担当を受け持つ分野のお話であると考えるべきです。

もちろんこれは病的飲酒欲求に限ったことではありません。ふつうの飲酒欲求も同様です。肝機能が低下しようが絶好調であろうが、飲みたいときは飲みたいし、飲みたくないときは飲みたくないと、脳が考えるのです。

ただし、肝疾患などによって著しく肝機能が損なわれているときには、倦怠感や食欲不振、その他「お酒を飲みたくなくなる(酒どころではない)」状況に陥らなければならないことも多いです。

そういうときには、ディープなアルコール依存症でもない限り、お酒を飲みたいとは思わないはずです。筆者も、肝臓はどうかわかならいけれど、お腹が痛いときなどはお酒を飲みたいなんてこれっぽっちも思いません。

ですから、「お酒を飲みたくなくなった」と思うようになったとしても、重度肝疾患など特殊なケースを除いては、基本的には肝機能低下と関係があるとはいえないということをご理解ください。

では飲みたくなくなった理由はいったい何なのか?というところは気になりますが、これについてはその人の欲求(脳の働き)にかかわる話なので、人それぞれ異なる理由があるのではないかと推測されます。

ただ、上記の「加齢などによりお酒が弱くなった」という意識が脳の働きに変化を与え、「お酒を飲む気分じゃないなぁ・・・」と考えてしまうことは、もしかしたら起こるのかもしれません。

お酒が弱くなったと感じることも含め、心配であれば、一度病院で相談したり肝機能検査をしたりしてもよいのではないでしょうか。プラスになることがあってもマイナスになることはないですよ。

関係ないとは言いつつも…大切なのは飲酒で肝臓をダメにしないこと

今回は、お酒に弱くなったこと、あるいは飲酒欲求が減退してきたことと、肝機能低下には関係があるのかないのかといったテーマで検証してきました。

かなりややこしいお話だったかとも思うのですが、お酒に弱くなったとか、飲みたくなくなったとかいう主観よりも、ガブガブ飲んで肝臓をダメにしてしまうことのほうがよほど大問題です。

そういうことだけはないように、お酒と上手に付き合っていっていただきたいと思います。

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