お腹が張る肝臓トラブル2つ。症例写真でみる張りの原因
お腹の調子が悪くなると、腹痛に便秘や下痢など、胃腸病の典型症状が見られることが多いです。
これらは明らかな異常ですが、「なんとなくお腹の調子が悪いな」というレベルでは、「お腹の張り」を自覚することもあるでしょう。しかし意外とお腹の張りは胃腸の問題ではない可能性もあるのです。
肝臓の具合が悪い、肝機能が低下した、といったケースでお腹が張るという話をときおり耳にします。すべてではありませんが一部事実を含みますので、詳しく解説していきます。
肝疾患とお腹の張りの関係は、大きく分けて2とおりに説明できる
胃腸の問題ならまだしも、お腹の張りが肝臓のトラブルと関係しているといわれても、正直ピンとこないな・・・と感じる人もいるかと思います。事実、肝臓のトラブルが起こったからといって、必ずお腹が張るというものでもありません。
解釈としては、肝臓の何らかのトラブルによって、お腹が張ることがあるという程度でとらえていただきたいと思います。最近お腹が張っているからこれは肝臓が悪いんだな!というものではありません。
肝疾患でおこるお腹の張りの原因として、次の2つについてその症状を説明していきましょう。
- 腹水
- 肝腫大
重度肝疾患にお腹の張りはつきもの。代表的な「腹水」
肝疾患によって肝機能が低下してお腹が張ることがあるわけですから、お腹の張りは肝機能障害の一種であるといえます。比較的軽度な肝機能低下でお腹が張ることは多くありませんが、重度肝疾患による肝機能障害ではお腹が張ることが多いです。
重度肝疾患になるとお腹が張る理由は、「腹水」と呼ばれる「水」がお腹にたまることが挙げられます。たとえば肝硬変の場合、中等度以上のステージに進行すると、腹水を発する確率が高くなります。
肝硬変に限らず肝不全、あるいは肝臓に限らず末期のがんなどの危機的病態で起こることが多い症状のひとつが腹水です。
▼CARTの実例
(出典:CARTの実例-一般財団法人防府消化器病センター より)
上の写真(左)は「張る」などというレベルではない、かなり重度な息苦しさを感じるほどの腹水です。しかし写真のレベルまで腹水がたまる過程では、多少「張る」という感覚にとらわれることになるとは思います。
しかし「張る」という感覚を自覚してからそれほど長い時間をおかず、写真のレベルまで腹水がたまってしまうことが多いです。腹水を抜く方法はいろいろありますが、抜くことで写真(右)のように、一時的に元通りになります。
ただ、重度肝硬変や末期がんなどでは、いずれまた腹水がたまりはじめる可能性が極めて高いです。腹水は症状が軽いときに少しだけたまって、重症だとたくさんたまるというものでもありません。
多少個人差があるものの、多くはかなり重篤な状態のときに腹水がたまると考えられています。
さまざまな原因で起こりうる「肝腫大」が張りの原因に
肝臓はこなすべき仕事が多いことも関係して、人体の中で最も大きな臓器です。しかしだからといって大きければよいというものでもありません。不当に肝臓が大きくなってしまうと、お腹の張りの原因になります。
▼アルコール性脂肪肝患者の禁酒後の経過
(出典:日々の症例182 アルコール性脂肪肝(禁酒後の経過) – 寺元記念病院 画像診断センター より)
肝臓が不当に大きくなってしまう病態を「肝腫大(かんしゅだい=肝臓の肥大)」と呼びます。少々の肝腫大を自覚することはありませんが、大きく腫大した場合、
- お腹の張り
- 膨満感
- 痛み
など、腹部の不快感を自覚します。
肝腫大の原因は非常に多様で傾向らしい傾向がないため、具体的なメカニズムまで説明することはできないのですが、概ね以下の肝疾患で肝腫大が起こるといわれます。
- 肝腫大が起こる原因となる疾患
-
- 急性肝炎
- 慢性肝炎(主にB型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎)
- 脂肪肝
- アルコール性肝障害(アルコール性脂肪性肝炎など)
- 胆管閉塞(たんかんへいそく)
- 肝硬変
など
上記の症状による肝腫大の場合、肝臓あたりを手で揉むと、腫大した肝臓がやわらかく感じられることがあるといいます。しかし肝硬変の場合は、肝臓の腫大部分が硬く感じられることがあるようです。
上記以外にも、肝臓がん、肝血管腫などの肝疾患や、白血病など各種悪性疾患、さらには単なる太りすぎ(あるいは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などにより、肝腫大が起こることもあります。
また、ごくまれにではありますが、先天的に肝腫大が起こっているという構造的な問題が原因となっているケースもあります。先天性の場合は、お腹が張っていると改めて自覚することは多くありません。
上記以外でも肝臓とお腹の張りが間接的に関係しているケースもある!
肝腫大とは直接関係ありませんが、よく似た症状が起こることもあります。というのも、肥満が原因となって、肝臓自体の腫大ではなく、皮下脂肪が肝臓などの内臓を圧迫することによって、お腹が張っているように感じるケースです。
肥満であっても肝臓に問題がなければ看過されるかもしれませんが、肥満が原因にしてもそれ以外の原因にしても、肝機能に低下が起こっているときは、お腹の張りと肝臓のトラブルが間接的にかかわっているといえるでしょう。
また、肝機能障害のひとつとして、「内臓のトラブル」が起こることも考えられます。その中のひとつ、「便秘で肝臓が悪くなる!特に便秘に注意すべき人の特徴とは」のページをご覧いただきましょう。
で、肝臓のトラブルが便秘をはじめとする胃腸障害を招き、これがお腹の張りとなっている可能性も考えられます。
という具合に、お腹の張りは肝臓がお腹を圧迫したり、逆に、肝臓とは直接関係がなくても、お腹の脂肪が肝臓などの臓器を圧迫したりすることで起こると考えられるのです。
肝臓が悪いと必ず張るわけではない、でも張るときは肝臓が悪いかもしれない
冒頭のほうでもお話しましたが、肝臓が悪いからといって必ずしもお腹に張りが起こるというわけではありません。たいていは、食べすぎや便秘などの胃腸障害のほうに原因があるはずです。
しかし食べすぎてもいないし便秘もしていない、ふだんと別段かわったところはないという具合に、お腹の張り以外の自覚症状が何もないという人は、一度肝機能検査(血液検査)をしてみてもよいかもしれませんね。
お腹の張りは気分的にも何らプラスを生み出しませんので、原因を突き止めると同時に、お腹の張りも早々に解消していただきたいと思います。