【コリンエステラーゼ】血液検査の基準値と、低い・高い数値が示す疾患
不慣れだとまるで暗号のように見えることもある検査項目。
しかし血液検査の数値はいろいろなことを教えてくれます。急性疾患の場合、検査より先に症状を自覚することが多いですが、慢性疾患の危険の察知には有効です。
特に、「沈黙の臓器」の異名をとる肝臓の疾患は自覚症状に乏しいため、血液検査でわかる肝機能値がことさら重要になることもあります。
そのひとつに、「コリンエステラーゼ」と呼ばれる項目があります。
記号ではChEで表記されるコリンエステラーゼですが、妙な星からやってきたと自称する女性タレントさんのことではありません。
肝臓と密に連携して機能し、疾患のマーカーとしても重要なデータとなります。
コリンエステラーゼ(ChE)とは?疾患に敏感に反応する特性がある
コリンエステラーゼには、物質を代謝する働きがある酵素です。コリンエステラーゼの出所と機能について、まずはお話しします。
コリンエステラーゼは肝臓でつくられる重要な酵素!
コリンエステラーゼは、全身の血中に含まれる酵素ですが、そのすべてが肝臓で生成されます。その意味では、肝疾患のマーカーとして特に有意なデータであるといえます。
特にコリンエステラーゼには、ほかの肝機能値と比較しても、疾患による異変に敏感に反応するという優れた特性があります。それだけマーカーとしても有能な酵素であるといえますね。
コリンエステラーゼは大きく2種類に分けることができ、どちらも肝臓でつくられることに違いはないのですが、つくられたChEが活躍する場所によって種類分けされます。
- コリンエステラーゼの分類
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- 真性コリンエステラーゼ・・・主に赤血球、筋肉、神経組織に含まれるChE
- 偽性コリンエステラーゼ・・・主に血清(※)、肝臓、膵臓、腸、肺に含まれるChE
※血清・・・血液を採取して放置し、血球などを沈殿させて残った上澄み。血漿の一部成分を除去したもの。
なお、真性コリンエステラーゼ、偽性コリンエステラーゼをそれぞれ「アセチルコリンエステラーゼ」、「ブチリルコリンエステラーゼ」と呼ぶことも多いです。
コリンエステラーゼは加水分解酵素として全身で働く
コリンエステラーゼには、コリンエステルと呼ばれる物質をコリンと有機酸(主に酢酸)とに分解する酵素としての働きがあります。特に神経系統に大きな影響を与える物質です。
アセチルコリンが神経細胞に働きかけると、神経系の興奮が高まり、副交感神経系に対して交感神経系が優位な状況となります。これが過剰にならないよう、コリンエステラーゼが作動します。
コリンエステラーゼがコリンエステル類を分解することにより、交感神経系の興奮はストップします。これにより副交感神経系が活発になると、アセチルコリンは臓器に働きかけます。
このときに肝臓ではたんぱく質が合成されます。アルブミンなど肝臓でたんぱく質を合成する酵素がいくつかありますが、コリンエステラーゼもそのひとつであると考えられます。
「抗コリン薬」などということばを聞いたことがあると思いますが、これはアセチルコリンの作用を一定時間無効にするための薬剤で、パーキンソン病などの神経系疾患ではよく用いられます。
コリンエステラーゼ値の正常範囲を知り、異常の原因を探る
肝臓で産生、分泌する酵素の血中濃度を知ることで、さまざまな疾患の種類や原因を知ることができます。加水分解酵素のコリンエステラーゼもそのひとつです。
コリンエステラーゼの正常範囲は?
一般的に肝機能値は、上昇を見てなんらかの異常を察知しますが、コリンエステラーゼの場合、数値が低下することで異常がわかることのほうが多いです。
- コリンエステラーゼの基準値(※)
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- フェノールレッド法…0.6~1.2ΔpH
- ブチリルチオコリン法…1900~3800IU/L
- ベンゾイルコリン法・・・1100~1900IU/L
※注意・・・検査方法は多様であり、それぞれ正常範囲が異なる。検査によっては多少の性差も考慮する必要があり、この場合女性のほうが低値。
コリンエステラーゼは肝臓でしか産生されないため、肝細胞に異常が起こることによって、コリンエステラーゼ値が低下します。とはいえ、異常により数値が上昇することもあります。
コリンエステラーゼ値の異常で疑われる疾患
コリンエステラーゼ値の低下、もしくは上昇によって疑われる疾患がいくつかありますので、以下にまとめます。
- コリンエステラーゼ値の異常で疑われる疾患
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- 低値…肝硬変、急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、悪性腫瘍など主に肝疾患
- 高値…ネフローゼ症候群、甲状腺機能亢進(こうしん)症、糖尿病、脂肪肝など肝臓外疾患
肝硬変などのように、コリンエステラーゼがまったく産生されなくなるケースでは数値が大幅に低下し、肝細胞をふくむ患部の細胞破壊により血中に過剰な流れ込みが起こると、数値は上昇します。
コリンエステラーゼ値に異常が見られた場合にはどんな対処が必要?
肝機能の状況を示す数値にもいろいろありますが、コリンエステラーゼは中でもその反応が素早いことで知られます。ですから、できるだけ早めにコリンエステラーゼ値の異常を察知することで、有効な対処が可能になります。
とはいえ、コリンエステラーゼは全身で作用する酵素なので、コリンエステラーゼ値だけから疾患を判断することはできません。上記の「疑いがかかる疾患」の候補を参考にし、いろいろな数値を参照する必要があります。
コリンエステラーゼ値の異常の場合、特に低値の際には警戒が必要になります。ChE値が低値異常だった場合には、その他のデータもしっかり参照しましょう。
たとえば肝機能であれば、GOT・GPT、γ-GTP(γ:ガンマ)、A/G比、ICG試験などの血液検査や、尿ウロビリノーゲン、腹部超音波検査、腹部CT検査、腹腔鏡検査、肝生検など検査が必要になる場合が多いです。
コリンエステラーゼは有能な疾患マーカー!
肝機能だけに限ったことではありませんが、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるだけに、肝機能値に異常が見られると、なんとなく不安を感じることになると思います。
コリンエステラーゼもそのひとつではありますが、ただ、コリンエステラーゼはいち早く異常を察知する有能な疾患マーカーです。過信はまずいですが、早期治療の手がかりとしては重要なデータといえます。
ですから、万一コリンエステラーゼ値に異常(特に低値)が見られた際には、肝機能をはじめ、精密な検査を心がけたいものです。異常の振れ幅にもよりますので、担当医と密に話し合ってください。