肝硬変の治療方法を2つのステージにわけて解説
原因はともかく、万一にも肝硬変の診断を受けたら、改善を目指して治療にとりかかる決意が必要になります。実際なかなか治療できるものでもないといわれる肝硬変ですが、一般論はともかく、ご自身が治療しようとしなければ改善の望みはありません。
徐々にではありますが、肝硬変の治療にも進化は確実にみられます。
ここでは肝硬変の治療の方針や方法について、できるだけメンタル面のケアに関してもお話していきたいと思います。
自分が立ち上がらないとダメ!ということがわかっていただけるかと思いますよ…。
肝硬変の進行度によって治療へのアプローチや治療方法は異なる
まず知っておかなければならないのは、肝硬変は進行する肝臓病であり、進行レベルによって治療へのアプローチ(考え方)や、実際に行う治療も異なることが多い、という点です。
いずれにしても、肝硬変の治療の目的は、完治というよりは悪化を食い止めることのほうに比重が置かれます。
肝硬変が悪化することで、肝臓がんをはじめとした重篤な合併症発症のリスクが飛躍的に増加するからです。
厳密には、肝硬変のステージはかなり細分化されているのですが、大きく分けるなら、肝硬変の進行レベルは2段階に分けることができます。
- 初期に近いのが「代償期肝硬変」
- 進行したものが「非代償期肝硬変」
肝硬変の治療についてスムーズにご理解いただくために、まずは肝硬変という病気について理解する必要があります。「肝硬変とは」のページにサラッと目をとおしておいていただくことをおすすめします。
初期に近い、代償期肝硬変の治療方法
回復力が強い肝臓組織は、一部分に肝硬変が起こっていたとしても、残りの部分だけで有効に肝機能を果たすことができる場合が多いです。この状態の肝硬変を「代償期肝硬変」と呼びます。
肝機能検査やエコー・CT、MRIなどから代償期肝硬変であるとの診断がくだった場合、
- 「生活習慣の改善」
- 投薬治療などによる「肝機能回復治療」
の2とおりの治療方法でアプローチするのが一般的です。
- 生活指導(生活習慣の改善目標)による代償期肝硬変の治療
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- 過労が残るような仕事、あるいは仕事の仕方は禁止
- 重労働は禁忌
- 高カロリー(※)、高たんぱく・ビタミン、消化のよい食事が推奨される
- 飲酒と肝臓負担が大きい薬物の服用は禁忌
最後の「飲酒と肝臓負担が大きい薬物の服用」については、「肝硬変の原因」の「原因2~長期的な薬物(毒物)利用が肝硬変のリスクを高める」の項目で詳しく解説しています。
ここで1点、上記内容で注意していただきたい部分があります。
- ※「高カロリー食」についての注意
- 臨床的に、高カロリー食が肝硬変治療に一定の効果が認められていますが、高カロリー食は正常な部分の肝臓組織に脂肪肝が起こるリスクを高めますので、高カロリー食は「カロリーバランスが良い食事」と解釈しましょう。
低カロリーの食事よりは少し高めのカロリーの食事のほうが代償期肝硬変には有効、という程度に解釈してください。
(参考:バランスの良いカロリーとたんぱく質の摂取-肝臓病の栄養療法(神戸朝日病院))
一方、投薬などによる肝機能回復治療については、当面の目標を「AST(GOT)/ALT(GPT)比を低下・安定させる」ことに置く場合が多いです。そのためのお薬については、治療を行う各医療機関にお問い合わせいただきたいと思います。
特にC型肝炎(ウイルス)が原因の代償期肝硬変の場合、健康保険適用範囲の治療方法として、
- インターフェロン単独治療
- インターフェロン・リバビリン併用治療
- ペグインターフェロン・リバビリン併用療法
2014年以降はインターフェロンフリーの経口剤治療(ただしChild-Pugh分類Aに限定)
(参考:肝硬変の治療-肝硬変(国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター))
といった方法が有効であることがわかっています。
また、医療機関で処方されるお薬とは別に、漢方薬が有効にAST/ALT比の値を低下・安定させるとする説もあります。
上記の治療をしっかり行うことで、最悪な状態は回避できる可能性が高いです。一般的に「治療困難」とされるのは、非代償期肝硬変のほうです。かといって治療しなければ悪化は免れませんので、今できる治療方法をご紹介します。
進行してしまった非代償期肝硬変の治療方法
肝硬変が肝臓全体に広がり、肝機能障害のレベルが激しく上昇し、腹水(ふくすい)や黄疸(おうだん)などが起こるレベルの肝硬変を「非代償期肝硬変」と呼びます。
ほとんどのケースで入院加療が必要になります。
この段階にまで進行してしまった肝硬変は、残念ながら改善させるためのお薬などは現状ありません。
肝硬変は「細胞死」が招く肝臓の状態と考えることができます。いくら回復力の強い肝細胞でも死んでしまったものは回復できないのです。
しかし肝硬変のこれ以上の悪化、ならびに重篤な合併症(肝臓がんや肝不全、肝性脳症など)を食い止めるための治療という意味では、生命を維持するために有効であるといえます。
肝臓がんになってしまえば生存率は究極的に減少しますし、肝性脳症になってしまえば「がんばろう!」という意識さえままならない状況も招きかねません。
合併症を食い止めることで、がんばる意識を持ち続けてほしいと願います。
非代償期肝硬変の治療方法は原因ごとの肝機能回復を目指す治療と合併症を食い止める予防的治療、あるいは合併症を発症してしまったときの対症療法的治療とに分かれます。
ここでは肝機能の回復をはかることで合併症を食い止めるための、肝硬変の原因や症状ごとの治療方法についてまとめます。
原因や症状 | 治療方法 |
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B型肝炎(ウイルス) | 抗ウイルス薬の服用。抗B型肝炎ウイルス薬はエンテカビル、テノホビルルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)、テノホビル、アラフェナミド(TAF)など |
C型肝炎ウイルス | 肝炎治療が困難なため(インターフェロン療法は実施されることが多い)、患者さん個々の症状ごとの対症療法が主に実施される |
分岐鎖アミノ酸(※)低下 | 低下した分岐鎖アミノ酸を投薬治療によって補充することで、主に肝臓でつくられるアルブミンなどのたんぱく質の質・量の改善を目指す |
腹水や黄疸 | 腹水や黄疸の一般的対処が有効でない場合、症状レベルが一定の基準(いわゆる末期症状以上のレベル)を満たした場合に限り、肝移植の措置を選択することができる |
※注
分岐鎖(ぶんきさ)アミノ酸・・・ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類のアミノ酸
(表の参考:肝硬変の治療-肝硬変(国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター))
肝硬変の、肝がん以外の合併症の治療方法
肝硬変が原因で亡くなる人が多いことについてはすでによく知られるところかと思います。しかし肝硬変が直接の死因になっているわけではなく、肝硬変から肝臓がんへの移行によるところが大きいです。
がんになってしまうと、そこからは肝硬変というよりは「がんとの闘い」というニュアンスの治療になりますので、これについてはまた別の機会にお話しするとして、がん以外にも死因となりうる肝硬変の合併症が多いことにも注意が必要です。
その予防的治療、対症療法的治療についてここからお話していきます。
「食道静脈瘤・胃静脈瘤」は肝硬変の最大の合併症リスク!
生命の危険を伴う肝硬変の合併症の代表ともいえるのが、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)です。
静脈瘤は静脈にできる瘤(こぶ)のような症状で、静脈瘤が破裂するようなことがあれば生命の危険は極めて高いです。
食道静脈瘤と同様のリスクがあるのが「胃静脈瘤」で、どちらも破裂させないための予防的治療が大前提となります。内視鏡で視察し、酸化剤と呼ばれる特殊な薬剤で静脈に強度を持たせる治療が必要になります。
また、血小板数が5万/μL以下の低下がみられる患者さんに対しては、治療の10日~2週間前から1週間継続してルストロンボパグという薬を服用して血小板数の上昇をはかることが多いです。
何しろ肝硬変が原因の静脈瘤ですから、できるだけ輸血は避けなければなりません(輸血後肝炎など輸血副作用のリスクがあります)。血小板数の著しい低下が避けられさえすれば、輸血のリスクは減少します。
レベルに応じてリスクが増大する「肝性脳症」
アンモニアなどの有毒物質が肝臓に運ばれると、健康な肝臓であれば難なくこれを解毒(げどく)処理できるはずなのですが、非代償期肝硬変の肝臓ではその対処能力がほとんど発揮されません。
結果、有毒物質が解毒されずにそのまま血管をとおって体内を循環します。このプロセスで脳におよんだ悪影響が「肝性脳症」です。肝性脳症の症状については、
- 昼夜逆転(Ⅰ度)
- 判断力低下および羽ばたき振戦(Ⅱ度)
- 錯乱状態および羽ばたき振戦(Ⅲ度)
- 痛覚反応ありの意識喪失(Ⅳ度)
- 痛覚反応なしの完全な意識喪失(Ⅴ度)
(参考:肝性脳症の昏睡度分類(国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター))
といった症状が見られ、昏睡度レベルが高いと生命の危険が極めて高くなります。治療方法としては、日常生活の中でケアする予防的方法と、投薬治療とにわかれます。
- 肝性脳症の予防方法
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- 便秘にならない
- 手洗い・うがいを徹底して風邪などによる感染症を防ぐ
- たんぱく質の過剰摂取を避ける
- 肝性脳症の治療方法
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- アンモニアを下げるための投薬治療(ラクツロースなどを服用)
- 抗生物質の投与
(参考:肝性脳症-肝硬変(国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター))
末期肝硬変の最も典型的な症状「腹水」
「肝硬変の症状」のページで確認いただけますと、腹水がいかにつらい肝硬変の合併症であるかを理解できると思います。肝硬変に限らず末期症状に多いのが腹水の特徴です。緩和ケアを兼ねた治療になることもあります。
- 肝硬変による腹水に対する治療の手順
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- 減塩食(1日あたりの塩分摂取量上限を7gとする)
- 利尿剤の内服(フロセミド、スピロノラクトンなど。効果が不十分な場合には、水分を強力に腎臓から出させるトルバプタン)
- 点滴によるアルブミン投与
- 腹水濃縮再静注療法(注射で抜いた腹水を適正に循環処理して濃縮・濾過(ろか)された腹水を抽出し、再び患者さんの静脈から注入して還元することでアルブミン濃度が上昇し、腹水がたまるスピードを遅くすることができる)
(参考:腹水-肝硬変(国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター))
末期肝硬変の緩和ケアについても少しずつ進化が見られていますし、厳しい状況ではありますが、非代償期肝硬変全体の治療も改良が進んでいることは事実です。
苦しいときに気兼ねなく相談できるお医者さんなり看護師さんなりを確保することも重要です。特に看護師さんは、ほんとうに献身的なケアをしてくれることが多いですよ。
治療が困難な状況を回避する前向きな治療を心がけましょう!
肝硬変というと、それだけでどこか絶望的な響きをたたえている印象も正直ありますが、しかし代償期肝硬変か非代償期肝硬変かで実情は大きく異なります。
代償期肝硬変であれば、元気な部分の肝臓組織が十分に肝機能を果たしてくれるケースのほうが多いです。それ以上の状況悪化を食い止めるための、前向きな治療を心がけたいところです。
非代償性肝硬変の場合、肝硬変を改善することは極めて困難であるといわなければなりません。ただ、「肝硬変の部分を肝硬変ではなくする」ことは、代償期肝硬変でも現状ほぼ不可能です。
そして、感染症などのケアを厳重に行うことで、非代償性肝硬変であっても現状を維持することができることもあります。そのためにも現状を受け入れ、強い気持ちで治療、合併症の予防に当たっていただきたいと思います。