肝機能が低下すると太る!研究結果で分かった検査数値との関係性

肝機能が低下すると太る、太りやすくなるといったウワサがささやかれています。

太っている人が脂肪肝など肝機能低下に陥りやすいのは理解できるというか、それは当然だろうという気もします。

しかしその逆の「肝機能低下により太る(太りやすい)」という命題は、仮にこれが正しかったとしても、正直その理屈をパッとイメージすることができません(少なくとも筆者には)。

「何言ってるんだ、肝機能が低下したらやせるに決まってるじゃないか」と言われれば、なんとなくそんな気にもなってしまいます。肝機能低下により、本当に太る、あるいは太りやすくなるのでしょうか?

肝機能低下により太る、太りやすくなるウワサは・・・ホントです!

ウワサや都市伝説はたいていウワサや都市伝説の域を出ずに終わってしまうことが多いですが、肝機能が低下すると太ったり太りやすくなったりするのではないかという説は、ホントです。

この説がウワサの域を飛び出して真実であることを裏付けるデータがあります。

メタボリックシンドロームとの発症リスクと肝機能検査値の関係を表すグラフ

調査対象:35~59歳のメタボリックシンドロームでない日本人男性会社員、2957例。

調査方法:肝機能検査値(初期値)別に5群に分け、その後のメタボリックシンドローム発症について7年間の追跡調査を実施し、発症リスクを検討した。
※アルコール摂取量などの他の危険因子で補正し解析

【コントロール群】
γ-GDP:<14units/L 群(n=526)
ALT:<14units/L 群(n=560)
(出典:メタボリックシンドロームとの発症リスクと肝機能検査値の関係-よくわかる!肝機能ナビ(田辺三菱製薬株式会社)より)

ALTは、肝機能を示す代表的な数値です。血液検査ではALT(GPT)などと記載されることがある項目ですが、これが高値を示していると、肝機能の一部が低下していることを意味します。

このデータを参考のひとつとして検証を進めます。

ALT(GPT)が高いとメタボになる!?

まずは「太る」という表現ですが、これは客観性に乏しく、肝機能低下に伴う何かを検証する際にふさわしい表現ではありません。ただ、見た目および体重など数値面でどちらも「太っている」と判断されれば客観性も高まります。

見た目でも数値面でも太っている状況を表す用語に「メタボリックシンドローム(メタボ)」があります。メタボは、ウエストと中性脂肪(トリグリセライド)、血圧、血糖値の数値から診断されます。

メタボリックシンドロームの基準
  1. 胴囲・・・男性85cm以上、女性90cm以上
  2. トリグリセライド・・・150mg/dL以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)・・・40mg/dL以下のうち少なくとも一方
  3. 収縮期血圧(上)・・・130mmHg以上、拡張期血圧(下)・・・85mmHg以上のうち少なくとも一方
  4. グルコース(空腹時血糖)・・・110mg/dL以上

以下の1を満たし、なおかつ2~4のうち2つ以上の項目を満たす場合をメタボリックシンドロームと定義する

(参考:メタボリックシンドロームの診断基準-e-ヘルスネット(厚生労働省)より)

一般的にメタボの人は虚血性疾患(心筋梗塞などの冠性心疾患や脳血管疾患)や糖尿病と、これらに派生する疾患のリスクが高いと考えられますが、実はメタボが肝臓の問題とも深くかかわっているのです。

上で示したグラフは、ALT(GPT)の数値(横軸)が高ければ高いほど、メタボの発症リスク(縦軸)の倍率が上昇していることを示します。つまり、肝機能低下による「太る、太りやすい」ことが統計的に示されているのです。

これは事実として受け止めればよいわけですが、これだけでは「あーそうですか」で終わってしまいます。問題は、なぜ肝機能が低下すると太りやすくなるのか、というほうです。

肝機能が低下すると太る、太りやすくなる理由は?

肝機能値(肝機能検査の結果)のALTとかASTとか、検査項目にあたる名称は、肝細胞が壊れることによって血中に流れ出した「物質」と考える必要があります。

つまり、「ALTが高いなぁ・・・」という感想は、「ALTがたくさん出てきちゃったなぁ・・・」とか「肝細胞がいっぱい壊れちゃったんだなぁ・・・」などと言い換えることができるのです。

では、ALT(GPT)だとかAST(GOT)だとかγGTP(γはガンマ)というのはいったいどんな物質なのかというと、当然肝臓で代謝や解毒を行う際に必要になる酵素と説明されます。

たとえば、お酒を飲むと、アルコールは血中・肝臓でアセトアルデヒドという有害物質に代謝されますが、仮に大量のアセトアルデヒドが血中に残ったまま血液が運ばれたらたいへんなことになります。

だからこそ肝臓は忙しくてもがんばってアセトアルデヒドを無毒化し、酢酸への解毒を試みます。このときに必要になるのが「アセトアルデヒド脱水素酵素」と呼ばれる酵素です。

アルコールの一例ではアセトアルデヒド脱水素酵素が登場しましたが、このような酵素がものすごい数肝臓では分泌され、代謝や解毒のために使用されます。それゆえ肝臓は「化学工場」などと比ゆ的に呼ばれます。

肝機能が低下するということは、化学工場のプラントのどこかにトラブルが発生したことを意味します。これにより、正しく酵素が分泌されないとか、分泌量が少なかったり酵素の質が悪くなったりといったトラブルが起こります。

もしプラントのどこかに異常が起こると、肝臓の脂肪代謝機能が正常に発揮されないことを意味します。

結果的に、脂質異常症(高コレステロール血症)やメタボリックシンドロームなどの原因となりえるのです。

また、トリグリセライドを合成する特殊な肝細胞が、肝機能の低下によって異常に増殖することも近年わかってきています。

逆もまた真なり!メタボが肝機能低下の原因にも・・・双方向のケアが必要!

肝臓という化学工場の重要な役割のひとつに、「脂肪の代謝」があります。酵素の分泌量や質、トリグリセライド合成と密接に関係している肝細胞の破壊などが原因で、肝臓における脂肪の代謝に悪影響がおよびます。

肝機能低下がメタボリックシンドロームを誘引しやすいことがおわかりいただけたかと思います。肝機能低下はメタボの原因になる・・・は、残念ながらウワサではなく、真実でした。

だからこそ、肝機能をできるだけ健全な状態をキープする必要があります。そのためには食生活、アルコール摂取制限、睡眠、たばこ、運動と、挙げればキリがありませんが。

ただ、そのうち食生活とアルコール、そして運動、場合によって睡眠と、4種類の項目で、肝機能とは直接無関係に、メタボのリスク因子となりえます。ということは、逆にメタボが肝機能低下を誘発するとも考えられます。

メタボの要因である高血糖と脂質異常は、肝機能低下の原因です。肝機能低下がメタボの原因になることはここまででお話してきました。そして、高血糖と脂質異常は残りのメタボ要因の高血圧とも関係があります。

ということは、メタボにならない(太らない、太りやすくならない)ためには肝機能の健全が前提であり、肝機能の健全に保つためにはメタボにならないという「双方向のケア」が必要になることがおわかりいただけるかと思います。

このことをよく理解していただき、日々大事に生活していただくことを願います。

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