HIV感染の原因に肝炎が関係している!?高まる重複感染のリスク

「九州地方でエイズ患者が急増している」といった不穏なニュースが報じられました。医療の進化で「不治の病」ではなくなった印象もありますが、現実には相変わらず予断を許さない疾患です。

エイズウイルス(HIV)はエボラなどと並び最も怖いウイルスですが、ウイルス性疾患といえば「ウイルス性肝炎」という怖い肝炎が、私たち日本人にとっても身近な肝臓病です。

一見無関係に見える2種類のウイルス、実は非常に関係が深いんです。

エイズウイルスHIVと肝炎ウイルスのそれぞれの特徴

肝炎ウイルスには、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、そしてあまり知られていないところではG型肝炎、TTV型肝炎など、概要さえわかっていないものも含めるとかなりの種類があります。

それゆえ安易に「肝炎ウイルス」とくくってしまうのも少々違和感があるかもしれませんが、HIVとの比較では割と参考になる部分があります。まずは両者のウイルスについて、簡単にではありますが概要をまとめます。

HIVウイルスの特徴と「エイズ」という病気

エイズウイルスHIVは、ウイルス自体は直接的に何かを攻撃するといった凶暴性があるわけではありません。これは意外と知られていない事実という印象もありますが、ではHIVのなにがいったい怖いのかというと・・・

HIV(Human Immunodeficiency Virus=ヒト免疫不全ウイルス)とは
ヒトの体をさまざまな細菌、カビやウイルスなどの病原体から守る免疫機能を担う上で非常に重要な細胞であるTリンパ球やマクロファージ(CD4陽性細胞)などに感染するウイルス。

HIVは大きく分けて、HIV1型とHIV2型がある。

これだけだと「なんのこっちゃ?」となってしまうかもしれませんので少し説明を加えますと、要は、HIVが何か悪いことをしてエイズになってしまうわけではなく、ダメになるのは免疫機能である、ということです。

つまり、HIVが限定的に感染するのが免疫機能をつかさどる細胞であり、その影響で感染者は免疫機能を失い、結果的にいろいろな病気になってしまうのが、いわゆる「エイズ」という病気なのです。

エイズ(AIDS)は「後天性免疫不全症候群」という病名です。「症候群」というのは、免疫をダメにされた結果起こる「いろいろな病気」の総称であると解釈して問題ありません。

つまり、エイズという病気の最大の問題は、病原体からの攻撃に対する防衛力を失ったまま丸腰で生きていかなければならないという点です。

肝炎ウイルスの特徴

それぞれの肝炎ウイルスについては、特に主要な肝炎であるA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎に詳細を説明してあります。詳細は各ページをご覧いただくとして、あくまでも概要としてお話するなら、

肝炎ウイルスとは
血液や体液、経口から入り込んで肝臓に感染して肝炎を引き起こす原因となるウイルス

と説明されることになります。もちろんHIVも肝炎ウイルスもどちらも「ウイルス」ですから、イメージ的には似通っています。

肝炎ウイルスとHIVウイルスの関係は感染経路を見るとみえてくる

ウイルス自体のほんの概要の部分を羅列しても、互いがどう関係しているのかイマイチ見えてこないかもしれませんが、実は「感染経路」を比較すると、両者は驚くほど似通っています。

中でも、HIVと同様「生命の危険」を伴う可能性が高いB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)を比較すると、感染経路は

  • 輸血
  • 医療従事者の針刺し事故などによる感染
  • 注射器を使用した覚醒剤
  • 性的接触
  • ピアスや入れ墨など
  • 母子感染

など、主要な経路で一致を見ます。感染確率などは若干異なりますが、実は確率的にも想像される以上に近いパーセンテージだったりします。どちらも圧倒的に多いのは「輸血」です。つまり何がいいたいのかというと、

「エイズは性病(性感染症)でありウイルス性肝炎は性病とは異なる一般的な感染症である」という認識は完全な間違いだ!

の認識が必要なのではないか?ということです。エイズが性病と定義されるなら、B型、C型肝炎も性病であり、B型、C型肝炎が一般的な感染症なら、エイズも同様であると考えるのが自然なのではないでしょうか?

ところが、仮にHIVに感染したことが判明したとすると、ショックのあまり目の前が真っ白になり、そうかといって誰かに気軽に相談できるというものでもないといったジレンマに陥る人が多いと推測されます。

ではこれがB型肝炎やC型肝炎だったらどうかというと、確かにショックはショックだとは思いますが、冷静に最良の治療方法を模索し、知人や識者に相談し、改めて医療機関にかけこむのではないでしょうか?

要するに私たちにとって、

HIV感染のリスクはB型肝炎やC型肝炎と似たレベル(同じとは言いません)にあるのではないのか?だったら感染が判明した際の対応やこころの持ち方、患者に対する見方も同様である必要があるのではないか?

と考えることができますよ、というここまでのお話でした。

まあ確かにエイズと肝炎では致死率や予後の面で大きく異なるので、病気への「恐怖心」という感覚が異なるのは当然ではあるでしょう。それにしても少々極端なのではないかな、という気も正直します。

差別的な考え方は人間の誰もが持つ感覚だとは思いますが、大した違いがない2つのものを、角度を変えてわざわざ屈折させて眺めると、そういった考え方が生まれやすくなるのではないかと感じたりします。

もしエイズがB型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎と同様の感覚でとらえられていたとしたなら、報道のされ方、報道を受けた人の感じ方も若干異なっていたのではないかという気がしないでもありません。

九州のエイズ患者急増のニュースを耳にして、こんなことを考えさせられました。

HBV、HCV感染がHIV感染のリスクを高める可能性

今回は少し感覚的なテーマに終始してしまいました。反省の意味も込めて、実用的なデータもご紹介してお話をまとめたいと思います。感覚的な部分以外でも、ウイルス性肝炎とエイズには深い関係があるんです。

それは、HBVとHIV、HCVとHIVの「重複感染」についてです。欧米圏のデータではありますが、HIV感染者の6~14%がHBVに感染しているというデータが紹介されています。

HCV感染者についても同様で、やはり重複感染の可能性が考えられます。重複感染の場合、感染したどちらのウイルスも症状悪化の危険性を高めるという非常に深刻な問題があります。

たとえば、ウイルス自体が増殖する危険度が増すという問題と、肝線維化を招きやすいといった、いずれも深刻な危険性が重複感染では特に指摘されています。

重複感染の原因の詳細については割愛しますが、単純に考えて、上記で触れた「似通った感染経路」が最も大きな重複感染の原因となっていることはいうまでもありません。

HIVにしても肝炎ウイルスにしても、私たちの生命を脅かすウイルスですから、十分警戒して生活しなければなりませんよね・・・

(参考:東京都立駒込病院 菅沼明彦・HIV感染症と慢性肝炎-ウイルス性肝炎とHIV感染症(LASR)より)

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