劇症肝炎の原因は非常に多様。子供から高齢者まで要注意

症状のタイプや悪化状況を示すことばはいくつかあります。緩やかでもずっと症状がある場合を「慢性」、それまでなんでもなかったのに急激な異変が起こる場合を「急性」と呼びますが、これらはまさにその典型です。

肝臓病のひとつである「肝炎」にも、ウイルス性肝炎をはじめとして慢性肝炎と呼ばれる症状があります。

これに対し、ウイルス性肝炎の急性症状を急性肝炎と呼びます。もうひとつ、「劇症肝炎」について今回お話します。

劇症肝炎は肝炎の中でも危険な症状があらわれる

「劇症」のことばはそこまでよく知られているわけではないでしょう。ただ、「ゲキショウ」という響きはなんとなく緊急性の高い何かを示している印象があります。

肝炎の最も恐ろしい症状タイプのひとつに、「劇症肝炎」があります。

「劇症」はまれに「激症」と表記されることもありますが、その響きのイメージどおり、「急激に起こり、著しく重い(激しい)症状」のことを劇症と呼びます。

つまりいくつかある肝炎の症状タイプの中でも最も怖い症状が劇症肝炎なのです。

劇症肝炎は、いわゆる「難病」に加えられることもあるほど重篤な症状が起こります。難病指定がないので厳密には難病に含まれませんが、これは制度上の都合であって、難病でないわけではありません。

難病指定はないものの「難治性(なんちせい=治療の効果が現れにくい、治りにくい性質)の肝炎」と表現されることが多いです。

難治性肝炎の中でも特に症状の激しい肝炎が劇症肝炎であり、少なくとも「重病」ではあるわけです。

劇症肝炎の定義と、あらわれる症状

いくら自覚症状に乏しい肝疾患ではあっても、劇症肝炎ともなれば自覚症状が必ず現れます。かなり大きな苦痛を伴うレベルの自覚症状です。しかし劇症肝炎の定義自体は、自覚症状の有無は無関係です。

劇症肝炎の定義
何らかの原因によって肝臓を構成する肝細胞が急激かつ大量に破壊され、主要な肝機能(解毒、代謝、胆汁の生成など)が著しく損なわれる肝障害

(参考:劇症肝炎とは-難治性の肝炎のうち劇症肝炎(公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター)より)

劇症肝炎の典型的な症状に肝性脳症(かんせいのうしょう=肝臓の解毒機能が損なわれることで毒素が脳に到達して起こる意識障害で、死に至る危険もある)がありますが、劇症とはいっても突然意識不明になるわけではありません。

劇症肝炎の発症当初は急性肝炎の初期症状と同様の症状で、全身のだるさ、吐き気、頭痛や食欲不振といった風邪のような症状が現れてから8週間以内に肝性脳症が現れるのが劇症肝炎の特徴です。

一般的な肝障害(通常の慢性、急性肝炎や脂肪肝など)であれば、一度破壊されても肝細胞が再生されることはよく知られています。しかし劇症肝炎では、あまりにも大量かつ広範囲の肝細胞破壊が急激に進行します。

したがって、再生の機能自体が根こそぎ損なわれてしまうことが多く、適切かつ緊急の治療が施されなければ、高い確率で死を招きます。このあたりが「難治性で激しい症状の肝炎」と考えられる理由でしょう。

劇症肝炎の症状
  1. 風邪に似た初期症状(発熱、筋肉痛、全身倦怠感、頭痛、腹痛、吐き気、食欲不振など)
  2. のちに黄疸(おうだん=白目や皮膚の一部が黄変する肝機能障害)、褐色尿
  3. これらの症状が重度化したのちに肝性脳症を発症

(参考:この病気ではどのような症状がおきますか-難治性の肝炎のうち劇症肝炎(公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター)より)

急性肝炎でも風邪に似た症状が現れたのちに黄疸や褐色尿などの症状が見られますが、急性肝炎では、黄疸・褐色尿の段階になると風邪に似た症状は徐々に軽減されていきます。

しかし劇症肝炎では、黄疸・褐色尿の段階になるとますます風邪に似た症状が進行するという点が大きな特徴です。もっとも、それ以前に「黄疸」が現れた段階ですぐに医療機関に向かうべきです。

全身の激しいけだるさと肝性脳症による意識障害との境界がわかりづらいことがあるので、肝性脳症が現れる前に医療機関で検査や診察を受けることが、劇症肝炎への対処の絶対条件であると考えるべきです。

慢性でもなく急性でもない・・・劇症肝炎の原因は?

同じ肝炎なのに、どうして慢性肝炎になったり急性肝炎になったりするのか、少々不思議ですよね?さらには死亡の危険性が急激に高まる劇症肝炎などという厄介な症状までなぜ起こりうるのか、この点について考えてみたいと思います。

劇症肝炎は、お子さんからお年寄りまで、幅広い年齢層で起こりうる肝炎の症状です。

血液感染のB型肝炎は母子感染の危険性が高いことが知られており、お子さんがB型肝炎ウイルスに感染する危険性はゼロではありません。

お年寄りのB型肝炎の場合、数十年にわたり無症候性キャリア(B型肝炎ウイルスキャリアでありながら症状が現れなかった)であったのが、そこに新たな何らかの条件が加わりB型肝炎を発症するに至ったと考えられます。

劇症肝炎を発症しやすい患者さんのタイプとして、B型肝炎ウイルスのキャリアが挙げられます。年齢によらず幅広い年代で劇症肝炎が見られるのはそのためです。年齢と無関係に起こる自己免疫性肝炎が劇症化することもあります。

最も典型的なパターンとして、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、自己免疫性肝炎など、もともと肝炎があって、その症状が悪化して劇症化するパターンが挙げられます。しかし劇症肝炎のリスクはほかにもあります。

長期的な薬物服用や膠原病(こうげんびょう)など重度な疾患に触発されて起こる劇症肝炎です。膠原病など重篤な疾患の場合、強い薬を長期にわたって服用する必要があるため、薬物性肝炎を発症する患者さんが多いです。

薬物性肝炎の中にはあっという間に劇症化してしまうタイプの肝炎もあり、これが劇症肝炎の原因になるのです。

また、悪性関節リウマチをはじめとする膠原病のような重度疾患は、自己免疫性肝炎を呼ぶことが多いです。

膠原病など重度疾患の患者の薬物服用による薬物性肝炎が劇症肝炎の原因になるケースや、薬物とは無関係、もしくはその関係の有無までは特定できない(自己免疫性)劇症肝炎を発症するなど、多様なケースが考えられます。

劇症肝炎は非常に危険な症状!とにかく早期の対処が必要

どんな肝炎でも、生命の危険を多少は伴うと考えなければなりません。肝臓がダメになれば、全身のあらゆる機能がダメになることと同じだからです。しかしその危険性が最も高い肝炎の症状が劇症肝炎であると考えるべきです。

たいてい黄疸が現れれば「ただごとではない!」と判断して医療機関に駆け付けることになるとは思います。しかし軽度の肝炎でも肝炎とは無関係の胆道系トラブルでも黄疸は起こり得ます。と同時に、劇症肝炎でも黄疸は起こるのです。

劇症肝炎以外の黄疸であれば、多少猶予があるトラブルが原因の場合もあります。しかしもしそれが劇症肝炎による黄疸であったとするならば、一刻の猶予もないといっても過言ではありません。

肝障害というのはそれくらい怖いトラブルであると理解していただきたいと思います。どんな症状であっても、肝臓のトラブルだと考えた以上、迷うことなく医療機関に駆け付けていただきたいと思います。

万一生命の危険も十分考えられる劇症肝炎が原因の不調であるなら、とにかく早期に対処できるか否かが重要なターニングポイントになるのです。

この記事をシェア

合わせて読みたい

ページ先頭に戻る