C型肝炎の予防接種は開発中。光が見えたワクチン実用化へのみち

すべてではありませんが、感染症の多くは予防することが可能です。

ご存知のとおり、予防の方法として「予防接種」が有効な場合が多いですよね。

実際A型肝炎やB型肝炎などのウイルス性肝炎(=感染症)は、予防接種による予防が可能です。

今回のテーマとなる感染症は「C型肝炎」です。A型肝炎、B型肝炎に有効なワクチンがあるなら、当然C型肝炎にもあるだろう・・・と考えがちですが、実は、これに関しては少し慎重にお話を進める必要があります。

C型肝炎は怖いから予防したい!その方法として「予防接種」はどうなの?

A型肝炎にしてもB型肝炎にしても、場合によっては生命の危険が生じるくらい強力な肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎です。それだけに、予防接種の有効性は非常に大きいといえます。

一般論として、C型肝炎はA型肝炎、B型肝炎よりも怖いといわれます。まあどちらが怖いかはその人の感じ方にもよりますので一概にはいえませんが、最も怖い肝臓病である肝硬変への移行の危険度は確かにC型が高いです。

それならば、A型、B型同様、C型肝炎の予防接種を受ければよいではないか、と考えるかもしれませんが・・・

C型肝炎のワクチン・予防接種のホントのところ

C型肝炎ウイルスに感染すると、将来最も怖い肝臓病である肝硬変への移行の危険度が急上昇します。肝硬変になると、考えうる最悪な状況である肝がん発症の危険度も上昇します。

だからこそA型、B型肝炎と同じように、予防接種をしておけば安心できる・・・と、ここまでは誰もが考えるところでしょう。危険に対して予防の意識が芽生えるのは当然のことです。

しかし残念ながら、現状ではC型肝炎を予防できる有効なワクチンは存在しないといわなければなりません。

C型肝炎の予防接種による予防の可否
C型肝炎ウイルスの外側のエンベロープ(たんぱく質)をつくる遺伝子が変異を起こしやすく、抗体をつくったときにはウイルスのエンベロープ構造が変異し、感染を防御する抗体としての効果が期待できないという理由から、C型肝炎のワクチンはまだ開発されていません。

C型肝炎ウイルスに感染する危険性が通常より高い人(こちらをご覧ください)にとって、上記の事実は衝撃的だったかもしれませんね。

現状では、C型肝炎を予防接種によって予防することはできないのです。

しかし、厳密な意味では上記の記述に誤った部分があります。それは「C型肝炎のワクチンはまだ開発されていません」という部分です。実は、C型肝炎ワクチンはすでに開発されています。

とはいえ、間違いなく認識していただきたいのは「現状C型肝炎ワクチンは実用化されていない」という事実です。開発されていないことは事実ではありません。開発されていて実用化されていないのが事実です。

このあたりの事情について、もう少し説明を加えます。

C型肝炎ワクチンは現在臨床試験の段階にある

C型肝炎ウイルスのことをHCVと表記しますが、HCVワクチンはすでに開発済みであり、予防接種として実用化するまでの初期段階に至っています。

前の項で、HCVワクチンはまだ開発(実用化)されていないと述べました。これは、ワクチンとなるHCVの外側のたんぱく質の性質の問題をクリアできなかったことが原因です。

しかし実は、2005年にこのたんぱく質を補強する補強剤の開発に成功したのです。

HCVワクチン開発の前に長年立ちはだかってきた最大の「壁」は、この瞬間取り払われました。

この補強剤は”K3-SPG”と呼ばれる物質で、これを不活化HCVワクチン(=免疫強化版HCV抗体)とともに、マーモセットというサルに接種した動物実験(非臨床試験)で、一定の効果がすでに認められています。

霊長類モデルを用いたワクチン効果の検証イラスト画像
(出典:霊長類モデルを用いたHCVワクチン効果の検証-新たなC型肝炎ウイルス感染予防ワクチンの開発(国立研究開発法人日本医療研究開発機構) より)

要するに、安全である可能性が高いHCVワクチンの生成にはすでに成功したといえるのです。もちろん、その安全性をより確実なものにするための臨床的な検証が今後必要になります。

まあ一般的な新薬では、ここから先が長いことが多いのも事実ですが、需要が高いHCVワクチンだけに、できるだけ早く実用化に成功して、「予防接種」の形で有効活用される日が待たれることになります。


(出典:研究開発から販売までの流れ-新薬創出プロセス(武田薬品工業株式会社) より)

便宜的に「ワクチン」ではなく「新薬」実用化のフローを上に掲載しました。個々のプロセスのスパン(所要期間)に多少の差異はありますが、だいたい同じです。HCVワクチン開発は現状「非臨床試験」まで完了です。

すでに開発されているHCVワクチンを実用化するためにも、HCVに感染しているC型肝炎患者の助けが必要になるわけですが、C型肝炎患者はA型、B型などウイルス性肝炎のなかでも最大の患者数を数えます。

ですから、一般的に時間がかかるとされる臨床試験も、意外と早いタイミングで「実用化」の朗報が聞かれるのではないかという予感もあります。まあこれはあくまでも私感ですが。

C型肝炎治療の新たな時代のへの光は見えた!

HCVワクチン生成に成功したのは、明里宏文(あかり ひろふみ)氏=京都大学霊長類研究所・教授ら、加藤孝宣(かとう たかのぶ)氏=国立感染症研究室・室長らの共同グループです。

つまり、HCVワクチンは日本で生まれることになるのです(「大人の事情」により、もしかしたら「実用化」は欧米諸国が先になるかもしれませんが・・・)。日本には新薬・ワクチン開発の優れたノウハウがあります。

だからこそ、長年待たれたHCVワクチンの開発にも見事成功することができたわけです。C型肝炎をめぐる医療の世界では、常に対症療法的な治療が優先して行われてきいました。

しかしインターフェロンフリー療法以降、少しずつですが、HCVに直接働きかける治療方法が積極的に注目されるようになってきてはいました。あとは予防接種の開発が待たれるばかりでした。

その予防接種への大きな一歩をようやく踏み出したことになります。これはまさに、「C型肝炎治療の新たな時代への光」として、多くの人にとって明るく輝いて見えることでしょう。

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