飲酒が引き起こすアルコール性肝障害の症状
お酒の飲み過ぎが肝臓に悪いことは、お酒好きな人ならよく知っているでしょう。知ってはいるのだけど、それでも止められないという人もいるかもしれません。
過剰な飲酒が原因の肝臓病を「アルコール性肝障害」と言います。お酒をたくさん飲み続けると肝臓はどんな状態になるのか、そしてどのような自覚症状が現れるのかなどについてみていきましょう。
お酒の飲み過ぎは肝臓に悪い!「飲み過ぎ」ってどれくらい?
お酒の飲み過ぎは肝臓に負担をかけ、肝臓を悪くしてしまいます。5年以上の長期にわたって過剰な飲酒を続けた結果に発症してしまった肝臓病を、「アルコール性肝障害」と言います。
アルコールの適量は純粋なアルコール量で1日20g以内とされ、この量は「お酒1単位」とも言われます。(もちろん、アルコールの適量には個人差があります。)
純粋なアルコールの量は、次の計算式によって求められます。
▼純粋なアルコール約20g(1単位)のお酒の目安
種類 | アルコール度数 | 目安量 |
---|---|---|
ビール | 5% | 中瓶1本(500ml) |
ワイン | 14% | 1/4本(約180ml) |
ウイスキー | 43% | ダブル1杯(60ml) |
焼酎 | 25% | 0.6合(約110ml) |
日本酒 | 15% | 1合(180ml) |
(参考:別冊NHKきょうの健康 C型肝炎・B型肝炎・脂肪肝・肝硬変・肝がん より)
アルコール性肝障害を引き起こしてしまう「過剰な飲酒」とは、「純粋なアルコールに換算して1日平均60g以上の飲酒」と言います。
これは上の表の3倍以上の量、例えば
- ビールなら中瓶3本以上
- ウイスキーならダブルで3杯以上
- 日本酒なら3合以上
の量ということになります。その量を毎日欠かさず、5年以上飲み続けた結果に発症した肝臓病を「アルコール性肝障害」というのです。
ただし女性の場合は男性よりもアルコールの処理能力が低いため、「純粋なアルコールに換算して1日平均40g以上の飲酒(上記の2倍以上)」を目安にします。
女性は男性より少ない量しか飲んでいなくても、肝障害を起こしてしまう可能性が高いのです。
適量の飲酒であれば、健康に良いとも言われます。ただし飲み過ぎれば害にになるものだということを忘れないでください。「過剰な飲酒」の量まで飲まなければ平気ということではありません。適量以上の飲酒は即、健康へのリスクとなります。
特にお酒に強い人は、ついつい適量を超えてしまいやすいでしょう。しかしそんなことを続けていると、気づかないうちに肝臓が少しずつ蝕まれていっていることを忘れないでください。
アルコール性肝障害の診断基準とは?
お酒をよく飲むという人が健康診断で肝機能が低下しているとわかった場合、アルコール性肝障害が疑われます。
ただし肝機能を低下させる原因はアルコールだけではないため、アルコール性なのかどうかの確認が必要になります。
肝機能低下を知るには、まず血液検査!自覚症状はほぼ出ない
肝臓に異常が起きていても、自覚症状はほぼ何も出ません。肝機能の低下を知るためには、血液検査を受けることが必要です。
血液検査の結果で、ALTやASTといった肝機能に関連する検査項目に異常値があった場合には、肝臓に何らかの問題が起きている可能性があります。
何となく肝臓の状態が不安だけど、別に気になる症状はないから・・・では、とても危険です。自覚症状が出たときには、肝臓の状態はかなり悪化してしまっていることが多くなるのです。
▼血液検査での肝機能検査の項目については、こちらをご覧下さい。
血液検査の数値の意味。これで肝臓の状態がまるわかり
血液検査の結果で異常が見つかった場合には、腹部エコー(超音波)検査やCT検査といった画像検査も行われます。
「アルコール性肝障害」と診断される条件
肝臓に何らかの問題が起きていることがわかった場合、飲酒の習慣がある人の場合にはアルコール性肝障害が疑われます。
ただしお酒をよく飲むからという事だけでアルコール性肝障害と診断されるのではなく、他に肝機能を低下させる原因がないかなどの確認も必要です。場合によっては肝炎ウイルスなどが原因で肝機能が低下していることもあるのです。
- 5年以上にわたって過剰な飲酒を続けている
- しばらく禁酒をすると肝機能検査の結果が明らかによくなる
- ウイルス性肝炎などの検査の結果、他の肝臓病は発症していない
これら全ての条件を満たした場合に「アルコール性肝障害」であると診断します。
先ほども言いましたが、過剰な飲酒とは「純粋なアルコールに換算して1日平均60g以上の飲酒」です。これを5年以上にわたって毎日飲んでいる場合に、アルコール性肝障害を疑います。女性の場合には「1日平均40g以上」が目安になります。
アルコール性肝障害の疑いがあった場合には、しばらく禁酒をして肝機能検査の結果がどうなるかを調べます。お酒が原因で肝臓に負担がかかっている場合には、原因となるお酒を止めるだけで肝臓の状態はずいぶん改善できるのです。
しばらく禁酒をした後、ALT、AST、γ-GTPなどの値が改善していれば、アルコール性の可能性が高くなります。
そして肝炎ウイルスの検査なども行われます。ウイルス性肝炎や薬物性肝障害など、他の肝臓病になっていないかという確認も必要なのです。
これら3つの条件を全て満たした場合に、「アルコール性肝障害」であると診断されるようになります。
アルコール性肝障害になっていても、自覚症状はほぼ何もありません。ですからまずは、健康診断を受けて肝臓の状態を知ることが一番大切です。
飲酒を続けるとアルコール性肝障害は進行していく
過剰な飲酒を長年続けていると、肝臓にはずっと負担がかかり続けることになります。そしてそのままでは、肝臓の状態は徐々に悪化していってしまいます。
過剰な飲酒を続けていると、アルコール性肝障害は次のように進行して行きます。
アルコール性脂肪肝であると指摘されてもお酒を止めずにずっと飲酒を続けていると、アルコール性肝炎やアルコール性肝線維症になってしまいます。
それでも止めないとどんどん進行してアルコール性肝硬変になってしまい、さらにアルコール性肝がんにもなってしまう可能性もあります。そしてこのままでは、命を落としてしまうこともあるのです。
- アルコール性脂肪肝
- お酒の飲み過ぎにより、肝細胞の30%以上に中性脂肪が溜まってしまった状態です。自覚症状はほぼありません。
- アルコール性肝線維症
- アルコール分解の途中でできるアセトアルデヒドや、肝臓に溜まった中性脂肪などの影響により肝細胞はダメージを受けます。そのダメージを受けた細胞が修復される過程で線維化してしまい、肝機能が低下した状態です。
- アルコール性肝炎
- アルコールの影響により肝細胞が壊死してしまった状態で、大量飲酒をきっかけに発症しやすくなります。細胞が大きく膨らむ「風船様肝細胞」が認められることもあります。
- アルコール性肝硬変
- 肝線維症や肝炎などの状態が続いたことで肝細胞の線維化が進み、肝臓が硬くなってしまった状態です。肝機能は著しく低下し、黄疸や腹水といった自覚症状も見られるようになります。
- アルコール性肝がん
- 肝硬変が進行すると、肝がんを発症してしまうこともあります。そのままさらに進行して、命を落とすこともあります。
アルコール性肝障害は、全体的に自覚症状の出にくい病気です。違和感に気づいたときには既に肝硬変にまで進行しているということもあります。そのため体調に異常を感じなくても、定期的に検査を受けて行くことが大切です。
日本人は欧米人に比べてアルコールを分解する酵素が少なく、一度に大量には飲めないことが多くなります。そのため大量飲酒がきっかけになる肝炎よりも、飲酒によってダメージを受け続けて肝線維症になってしまうことが多いとされます。
アルコール性肝障害の原因は飲酒!治療には、まずは断酒する
言うまでもないことですが、アルコール性肝障害の原因は長年続けた過剰な飲酒です。
▼アルコール性肝障害の詳しい原因についてはこちらをご覧下さい。
アルコール性肝障害の原因は、5年以上継続された過剰な飲酒
そしてアルコール性肝障害の治療の基本は、お酒を止めることです。お酒を一切止めることで、肝臓の状態はかなりよくなるのです。
逆に診断を受けても特に症状がないからとお酒を続けてしまっては、肝臓の状態はどんどん悪化していってしまいます。
肝硬変まで進んでしまうと、肝臓を元の状態に戻すことは難しくなります。(それでも断酒をすることで生存率は確実に上がります。)
▼アルコール性肝障害の治療法については、こちらをご覧下さい。
アルコール性肝障害の治療法は、断酒すること以外にない!
アルコール性肝障害の患者は、アルコール依存症になっていることも多いと思われます。自分の意思でお酒を止めることが難しいようでしたら飲酒を止めるための薬もあるため、まずは主治医に相談してみてください。
肝臓の状態が悪化して肝硬変になると、全身にひどいだるさが出たり、黄疸、腹水といった症状が現れます。
仕事にも支障が出てしまったり、食事も今までのように好きなものを好きなだけ食べるということはできなくなります。
そうなってしまってから後悔しても遅いですから、特に自覚症状の出ていないときから気をつけるようにしていきましょう。