【図で解説】肝臓のアルコール代謝・分解の仕組み
人類とお酒との出会いは紀元前にまで遡り、世界最古の酒の痕跡は紀元前7000年ごろの中国の遺跡から発見されたものとされます。きっと大昔の人も、美味しいお酒を飲んで仲間とのコミュニケーションを楽しんでいたのかもしれません。
お酒を飲むと酔いが回って心地よくなりますが、やがて酔いは醒めます。アルコールの分解が間に合わないと二日酔いになってしまうこともあります。その分解の仕組みを詳しくみてみましょう。
アルコールの分解は肝臓の仕事!有害物質を無害なものにかえる機能
美味しくて心地よく酔えるアルコールですが、実は体にとっては有害物質になります。体内に入ってきた有害物質を分解して無毒化することは、肝臓の重要な仕事です。
飲酒によって体内に入ってきたアルコールは、肝臓がフル稼働することで分解されていきます。そのため、毎日たくさんお酒を飲んでいると肝臓には大きな負担がかかることになります。だからお酒の飲み過ぎは肝臓を悪くしてしまうのです。
では、肝臓でアルコールがどのように分解されていくのかを説明しましょう。
アルコールが水と二酸化炭素に分解されるまで
お酒を飲んだとき、摂取したアルコールは次のように変化していきます。
それぞれの反応について、詳しくみていきましょう。
摂取したアルコールは胃や小腸で吸収される
口から摂取されたアルコールは、胃から20%、小腸から80%くらいの割合で吸収されます。吸収されたアルコールの大部分は、消化管から肝臓へ栄養などを運ぶ「門脈」という血管を通って肝臓に流れ着き、そこで分解されていきます。
摂取したアルコールのうちの数%は、分解されることなくそのまま汗、尿、便として排出されるものもあります。ただそれはほんのわずかな量になります。
アルコールの吸収は速やかで、飲酒後1−2時間でほぼ吸収されてしまいます。食べ物が一緒の場合には、胃で食べ物の消化が終わるまで次の小腸へは流れていかない仕組みがあるため、アルコールだけのときより吸収に時間がかかります。
そのため「すきっ腹に飲むと酔いやすい」のです。またアルコール度数の高いお酒ほど、早く吸収されやすくなります。
一次代謝:アルコールが分解されてアセトアルデヒドに
肝臓でのアルコールの代謝は、上図のように2段階で行われます。
まず第1段階ではアルコールがアセトアルデヒドへと分解されます。肝細胞の「アルコール脱水素酵素(ADH)」や「ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)」によって酸化され、アルコールはアセトアルデヒドになります。
このとき主に働いているのはADHです。通常では8:2くらいの割合でADHとMEOSが働いています。
しかしアルコールをよく飲む人の場合にはMEOSの働きが良くなるために、MEOSによって分解される割合が上がってきます。
このMEOSは、お酒を毎日飲めば飲むほど量が増えます。そのため大酒飲みの人はMEOSがよく働くようになり、MEOSによる代謝比率が上がるのです。そしてアルコールの消失速度も異常に早くなります。
つまりお酒を毎日飲むとMOESの働きが良くなりお酒に強くなるとも言えます。ただしMEOSがアルコールを分解するときには大量の活性酸素も作られてしまいます。
活性酸素は細胞を傷つけ、がんや老化を引き起こす原因とも言われている物質です。MEOSがよく働くようになると活性酸素も増えてしまうということになるため、気をつけなくてはいけません。
さて一次代謝によって作られたアセトアルデヒドですが、これはアルコール以上に有害な物質になります。飲酒をすると顔が赤くなったり、動悸、吐き気、頭痛といった症状が現れますが、これは全てアセトアルデヒドに原因があるのです。
二次代謝:アセトアルデヒドが分解されて酢酸に
第二段階の代謝では、有害なアセトアルデヒドがアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酸化され、無害な酢酸に変わります。
しかしALDHの働きが悪く分解がなかなか進まないと、体内のアセトアルデヒド濃度は下がりません。これが二日酔いの原因です。有害物質のアセトアルデヒドによって吐き気、むかつき、頭痛、発汗といった二日酔いの症状が引き起こされてしまうのです。
よく言われることですが、日本人は欧米人に比べてこのALDHの働きが弱いことが多くなります。なかにはALDHが全く働かない人もいます。これがお酒に強い、弱いの違いになります。
実は白人や黒人には、ALDHの働きが悪いという人はいません。なぜか不思議なことに、モンゴロイドにだけALDHの働きが悪くお酒に弱いという人がいるそうです。日本人の半数は、ALDHの働きが弱い、もしくは全く働かないタイプとされます。
酢酸は水と二酸化炭素になって体外へ
ALDHの働きによって作られた酢酸は血流にのって全身をめぐり、筋肉や心臓などに移動していきます。
そこで糖質や脂質やタンパク質を代謝する「TCA回路(クエン酸回路)」に入り、エネルギー源として使われるのです。1gのアルコールから約7kcalの熱を生み出すとされます。
そして最終的には水と二酸化炭素(炭酸ガス)へと分解されて、体外へ排出されていきます。
肝臓で分解しきれなかったアルコールは血流にのって一度心臓へ行き、その後全身をめぐってまた肝臓に戻ってきます。そしてまた分解をされていきます。
このような仕組みによって体内に入ったアルコールは分解され、体の外へと排出されていくのです。
アルコールの分解速度は個人差が大きい
実体験として感じていらっしゃる人も多いとは思いますが、アルコールが分解されて体内から消失するまでの時間は個人差が大きくなります。これには肝臓の大きさや筋肉の量なども関係していると考えられます。
一般的には女性よりは男性、若者や高齢者よりは中年の方が消失速度が速いとされます。飲むとすぐ顔が赤くなるという人は、体内からのアルコールの消失速度も遅くなります。
体重60−70kgの成人男性の場合、1時間に純粋なアルコールとして5−9gを処理できるとされます。ビール中瓶1本(500ml)の純粋なアルコール量は20gのため、中瓶1本分のアルコールを処理するには3−4時間くらいかかると考えられます。
もちろん何度も言いますが、アルコールの分解時間には個人差が大きくなります。お酒に弱い人ではもっと時間がかかってしまいます。
また深酒をした夜は、一晩寝てもまだアルコールが分解が終わっていないこともあります。目が覚めて、自分の感覚としてもうお酒は残っていないと思っていても、実際には残っていることもあるのです。
このまま運転してしまうと飲酒運転になってしまいますし、場合によっては事故を起こしてしまう危険性もあります。一晩寝たからといって、自分を過信しないようにしましょう。