A型肝炎の感染経路。カキなど食べ物・飲み物での経口感染に注意


感染症はその感染源が何なのか、つまりは「感染経路の特定」が非常に重要な意味を持ちます。

治療の手がかりになるのはもちろんですが、ほかの人が感染する危険性を軽減するためにも感染経路の特定は重要です。

肝炎にもその原因別にいくつかの種類がありますが、一種の感染症と考えられる肝炎もあります。ウイルス性肝炎です。

B型肝炎、C型肝炎などいくつかありますが、A型肝炎もそのひとつで、感染経路の特定はやはり重要です。

どこで、どうやって感染するのか。A型肝炎の感染経路

正二十面体という律儀な正多面体の形をした小さなA型肝炎ウイルス(直径27nm=27mmの10億分の1)ですが、これが感染することで起こるA型肝炎は、最悪の場合死を招くほど強力です。

それだけに、A型肝炎ウイルスに感染しないための対処が必要になるわけですが、ということは、現在報告されているA型肝炎ウイルスの感染経路をしっかりと確認しておく必要があるといわなければなりません。

一般的には糞口感染が多いといわれるA型肝炎だけど・・・

A型肝炎は、経口感染(けいこうかんせん)といって、口から肝炎ウイルスが入り込んで感染するというタイプの感染経路になります。日本でよく知られるB型肝炎やC型肝炎などは、血液感染が主流です。

同じ肝炎ウイルスでも、それぞれのウイルスがそれぞれの経路で感染すると考えておくべきでしょう。で、経口感染の中でも、あくまでも一般論として言われるのが「糞口感染(ふんこうかんせん)」です。

文字通り、ヒトや動物の糞便を介して口からA型感染ウイルスが侵入して感染し、肝炎を発症するといった感染経路になります。ただここで、ひとつの「疑問」が浮上することになるかと思います。

そもそもA型肝炎ウイルスって、雑菌と一緒にそこらへんで繁茂していたり浮遊していたりするものなの?というごくごく素朴な疑問です。何しろA型肝炎ウイルスは、感染すると死を招く危険性もあるウイルスです。

もしそこらへんを泳いでいたり、場合によって私たちの身体のどこかに常駐するようなことでもあるなら、A型肝炎ウイルスに感染したヒトや動物の糞便を介して誰かに感染することも確かにあるでしょう。

しかし日本のように衛生環境が高いレベルで保たれている国で、ほんとうにそんなことが起こるのでしょうか?そもそもA型肝炎に感染したヒトや動物がそんなにたくさんいるのでしょうか?

実はこれについて、ひとつ興味深いデータがあります。

A型肝炎の国外感染地域円グラフ
(出典:A型肝炎の国外感染地域(感染症発生動向調査報告より)-A型肝炎とは(NIID国立感染症研究所)より)

どこにでもある大しておもしろくもないふつうの円グラフですが、A型肝炎ウイルスと感染経路の関係を探る上では非常に興味深いデータです。日本を含まないデータではありますが、意味は大きいです。

つまり、A型肝炎ウイルス感染はインドやその周辺地域、中国台湾、東南アジアで絶対的に多いことを意味するデータです。日本が入っていないので確かに単純比較は難しいかもしれません。

しかしこの中に欧米先進諸国がひとつも含まれていないという点は注目に値します。ウイルスなので気温や湿度と関係が深いことも大きいですが、衛生環境が高いレベルにある国々では感染が少ないのです。

日本の衛生環境レベルは、欧米先進諸国に勝るとも劣らない高いレベルで保たれています。むしろ日本ほど衛生レベルが高い(というか、外国からみればありえないくらい厳しい)国もありません。

ですから、A型肝炎ウイルスが雑菌のようにそこらへんにうようよしていたり、まかり間違って人間に付着していたりといった可能性は極めて小さいと考えられます。ただし、いくつか注意すべき点はあります。

海外渡航者がキャリアとなって帰国した場合です。身体にくっついてくるということはまずないとは思いますが、海外で何かを食べたときに内部感染することは、十分に起こり得ます。

ということは、近年増えに増えている海外からの旅行者や入国者によってA型肝炎ウイルスがいつの間にか持ち込まれるリスクも同等ではあるでしょう。まあ悪気はないので責められるものでもないですが。

と同時に、温暖化の影響で亜熱帯化が進む日本では、中国南部や台湾、そしてインド周辺諸国と同様の環境に近づいていないともいえません。もともと日本は多湿なので、ウイルスにとっては住みやすい環境です。

ですから一応懸念材料はあると解釈すべきです。しかしそうはいっても、A型肝炎が「糞口感染」によって感染する性質を考えれば、日本のトイレ事情を考慮するとそこまで深刻な事態ではないともいえます。

本能のおもむくままに物陰で・・・などという所業は、日本ではあり得ませんよね?それなら、日本におけるA型肝炎ウイルス感染の危険は考えなくてもよいのかというと、残念ながらそれは正しくありません。

A型感染ウイルスの経口感染は食べ物を介しても起こる!

国がしっかりと衛生管理を行っている以上、糞口感染によるA型感染ウイルスの脅威はそこまで大きくはないと考えられます。あくまでも「糞口感染」に限定すればこれは事実です。

しかし残念ながらA型肝炎ウイルスの感染経路は「経口感染」です。経口感染のうち、糞口感染の占める割合は微々たるものです。では何が感染経路となるかといえば、当然「食べ物・飲み物」です。

衛生環境レベルが高い日本では、糞口感染を懸念するよりも、食べ物や飲み物によるA型肝炎ウイルスの感染を懸念すべきであるといわなければなりません。


(出典:A型肝炎の感染経路(感染症発生動向調査報告より)-A型肝炎とは(NIID国立感染症研究所)より)

衛生管理が充実している割に、日本人は魚介類の生食を日常の食生活に採用する数少ない国です。いや、むしろ衛生管理が行き届いているからこそ、魚介類の生食が可能であると考えるべきでしょうか。

いずれにしても、「カキ」の生食によるA型肝炎ウイルス感染が日本で最も多い感染経路であることがわかります。キャリアとの性的接触をはじめ「接触」の要素がないわけではありません。

しかしやはりA型肝炎は「経口感染」の可能性が極めて高く、しかもその割合は食べ物や飲み物である可能性が高く、中でも魚介類の生食の危険性が最も高いことを、私たち日本人はよく理解しておく必要があるでしょう。

感染経路は予防・対処へのヒントを与えてくれる重要なデータ

A型肝炎に限らず、感染症は万一かかってしまったときの症状や治療方法、致死率などの表面的なデータが気になるところです。もちろんそうしたデータや方法論が大切でないわけではありません。

しかし予防をしっかりと実施し、感染を未然に防ぐことができるなら、感染症はそんなに大きな脅威とはなりません。A型肝炎予防の有力な方法に予防接種があります。

▼関連記事
A型肝炎の予防接種を受けた方がいい人の特徴。渡航先と食べ物に注意

もちろん慎重を期して予防接種を実施することも重要な対策のひとつではあります。とはいえ感染経路を特定してしっかりと理解しておくことも、予防接種に勝るとも劣らない有効な対策であるといえるでしょう。

そういう意味でも、今回のお話を大いに参考にしていただき、予防への意識付けなどA型肝炎ウイルスの有力な知識として、いろいろ有効に活用していただきたいと思います。

この記事をシェア

合わせて読みたい

ページ先頭に戻る